「お金のない高齢者」は自業自得なのか

Q.老後資産を貯めておかなかったのは自分が悪い?

老後の生活資金については、「若いうちから計画的に貯蓄や投資をしておくべきだったのに、それを怠った結果が今の困窮なのだから、自業自得だ」という言い方がしばしばなされます。

その背景にあるのは、年金制度の先行きが不透明であることや、終身雇用が崩れつつある、ということなのかも知れません。これもまた、老後の困窮の原因を、それまでの本人の準備不足のうちに見出す、自己責任論です。

実際、家計管理や資産形成に関する情報は以前よりも手に入りやすくなり、努力次第で将来に備えることができたはずだ、という見方もあるでしょう。戦略的に老後の資産形成をすることが望ましいことも、事実かも知れません。

しかし、老後の資産形成が一つの規範になってしまうと、十分な老後資産を準備できなかった人が、生活に不安を抱えるのは当然の帰結であり、社会が特別に配慮する必要はない、と考えることが正当化されてしまいます。

社会的・構造的な要因が見落とされる

A.老後資産の不足は個人の怠慢だけでは説明できない

老後の生活資金に備える重要性それ自体は、否定されるべきものではありません。将来の不確実性が高まるなかで、可能な範囲で貯蓄や資産形成を行うことが、個人にとって一定の安心につながることも事実でしょう。

しかし、その事実だけを根拠に、老後資産を十分に準備できなかったことを個人の責任として片づけてしまうならば、私たちは老後不安の背後にある社会的・構造的な要因を見落としてしまう恐れがあります。

そもそも、老後に備える必要性を理解しているとしても、経済的な余裕がなければ貯蓄はできません。非正規雇用の拡大や賃金の伸び悩み、長時間労働による生活の不安定さなどによって、目の前の生活を維持するだけで精一杯という状況に置かれている人に、老後資産に心を割く余裕はないでしょう。

そうした人が貯蓄をできないことは、個人の意志の弱さというよりも、そうした選択を取りにくくする社会経済的条件の問題だと言えます。