耳掃除がなかなかやめられない理由
綿棒で耳をくるくる掃除するのがやめられない……という人は多いはずです。
実際、耳鼻科医である私は、毎日のように耳掃除をしすぎて炎症を起こした方を診ています。過去には外耳炎が悪化して入院になったケースもあるほどです。なぜ私たちは、そこまでして耳掃除をしたいのでしょうか。これには理由があります。
機能的MRIを使った研究で、かゆい部位を「かく」という行為が、脳の報酬系を活性化させることがわかっています(※1)。これは美味しいものを食べたとき、金銭的報酬を得たときに活性化するのと同じ系統。しかも面白いことに、耳をかいている間は、脳の痛みを感じる部位は抑制されます。だから「ちょっと痛い」くらいの強さでかくのが、いちばん気持ちいい。思い当たる人は多いはずです。
でも、本当は「かゆい」というのは、体からの「触ってはいけない」というサインです。創傷治癒の過程では、かゆみが生じます(※2)。このかゆみは「傷がちゃんと治りかけている」というお知らせだろうと私は思いますが、同時に脳に「かけ」と命じてしまうという矛盾があります。そうして実際にかくと、治りかけの組織を再損傷して負のループに入ってしまうのです。
※1 Papoiu ADP, Nattkemper LA, Sanders KM, Kraft RA, Chan YH, Coghill RC, et al. Brain's reward circuits mediate itch relief: a functional MRI study of active scratching. PLoS One.
※2 Paul JC. Wound Itch: An Update. Adv Skin Wound Care.
耳は「勝手にきれいになる」臓器
そもそも、耳の中は放っておいても勝手にきれいになる構造になっています。
外耳道(耳の穴の奥に続くトンネル)は、入口側の「軟骨部」と、奥側の「骨部」に分かれます。軟骨部は普通の皮膚に近く、毛も皮脂腺もあります。ここは外から手が届く範囲なので、お風呂上がりにタオルで軽く拭いても大丈夫です。
問題は、奥側の骨部。ここは人体で唯一、骨の上に皮膚が直接乗っています。毛包がなくて分泌物も出ないので、汚れが溜まる構造にはなっていません。もちろん、古い皮膚や剥がれた角質――つまり耳垢は出ますが、これも自動排泄されます。
その秘密は、外耳道の皮膚の「遊走能」と呼ばれる機能にあります。鼓膜の中心で新しい皮膚が生まれ、外側へとベルトコンベアのようにじわじわ移動していくのです。だから耳垢も、自然と外耳道の入口へと運ばれていきます。食事や会話の際に顎を動かすことも、この排出を助けるとされています。
「耳掃除は不要」と言われる根拠はここにあります。
耳垢は「軟骨部と骨部の境目」あたりまでは自動で出てきます。ただし、そこから先の入口まで届くかは、耳の形や耳垢の量によります。耳の穴が狭い人、もともと耳垢が多い人は詰まることがある。だから「詰まったら耳鼻科で診てもらう」ということもあるわけです。

