耳掃除による有害事象は意外と多い
ちなみに、アメリカ耳鼻咽喉科学会は、患者向けの公式メッセージで「肘より小さいものを耳に入れるな」と呼びかけています(※3、4)。
綿棒もヘアピンも鍵もつまようじも、全部ダメ。理由は危険だからだけではなく、綿棒などは耳垢を奥に押し込んでしまうからです。本来は外向きに動いている自浄作用と、真逆の方向に運んでしまう。耳掃除をしようとして、耳垢で耳栓を作ってしまうこともあるわけです。
米国のある研究によると、1990年から2010年の間に、米国の子どもの綿棒関連耳外傷による救急外来受診は26万件を超えています(※5)。そのうちの73.2%が「耳掃除中」の事故で、76.9%は子ども本人が綿棒を持っていました。そして、25.3%は鼓膜穿孔という診断でした。
これは、子どもだけの話ではありません。2025年に米国で成人を対象に実施されたアンケートによると、95.6%の人が耳掃除に綿棒を使っていて、そのうちの92.6%は「医師が推奨していない」と知りつつ使い続けていました。さらに3割近くは、すでに何らかの有害事象(耳の痛み・耳垢悪化・聴力低下)を経験しています(※6)。
※3 Schwartz SR, Magit AE, Rosenfeld RM, Ballachanda BB, Hackell JM, Krouse HJ, et al. Clinical Practice Guideline (Update): Earwax (Cerumen Impaction). Otolaryngol Head Neck Surg.
※4 American Academy of Otolaryngology-Head and Neck Surgery. Experts Update Best Practices for Diagnosis and Treatment of Earwax (Cerumen Impaction): Important Patient Education on Healthy Ear Care
※5 Ameen ZS, Chounthirath T, Smith GA, Jatana KR. Pediatric cotton-tip applicator-related ear injury treated in United States emergency departments, 1990-2010. J Pediatr.
※6 Weissman B, Chowdhury S, Mattin MD, Viola F, Flanagan OL. Ear-Rational Behavior: A Survey Study of Q-tip (Cotton Swab) Habits and Health Perceptions. Cureus.
外耳道がんは「利き手側」に多い
先に述べたように、私の診療経験においても、耳掃除が原因の外耳炎はとても多いです。ほとんどは外来での処置と点耳薬で治りますが、細菌感染による炎症「蜂窩織炎」を併発した場合、糖尿病があって外耳炎が悪化した場合などは、入院治療が必要になるケースもあります。たかが耳掃除、されど耳掃除です。
また、慢性的に耳を刺激すると、耳の穴が徐々に狭くなる「後天性外耳道狭窄」、外耳が塞がってしまう「後天性外耳道閉鎖」、耳のがんである「外耳道扁平上皮がん」のリスクが上がります。外耳道扁平上皮がんの主たるリスク因子は、慢性中耳炎や放射線治療歴などですが、皮膚への慢性的な刺激も、近年注目されている因子のひとつなのです。
ここに、日本ならではの興味深いデータがあります。日本人の外耳道扁平上皮がん68例を調べた研究で、明確な特徴が見つかりました。なんと、68例のうち52例は右耳、16例は左耳にがんがあったのです。日本人は右手が利き手であることが多く、それに対応した側ががんになる傾向が確認されました(※7)。研究者はこの偏りを、「みみかき」という日本特有の習慣で説明しています。特に硬い金属素材の耳かきを使用している人で発症率が高かったことが示されています。
もちろん、耳掃除をすれば必ずがんになるというわけではありません。観察研究なので、因果関係を証明したものでもありません。ただ、「可能性のあるリスク」として知っておく価値はあるでしょう。
※7 Tsunoda A, Sumi T, Terasaki O, Kishimoto S. Right dominance in the incidence of external auditory canal squamous cell carcinoma in the Japanese population: Does handedness affect carcinogenesis? Laryngoscope Investig Otolaryngol.
