シビアな駆け引き
結局のところ、習は必要であればトランプの主張を押し返せる立場にある。中国は、ホワイトハウスがエスカレートを選ぶ場合に対抗圧力をかけるため、経済的措置と軍事的措置の双方を含む広範な手段を持っている。
徐は「中国は根本的に、交渉戦術としての予測不能性に怯えているわけではない」と述べた。「中国の基本的な見立ては、アメリカの協力の有無にかかわらず、中国は自らの道に従って発展を続けるというものだ。同時に、中国にも、制裁、技術的制限、その他の圧力に対応を迫られた場合に使える手段がある」
中国の報復能力は、トランプが大規模な関税を課そうとした際の中国の対応に表れていた。
トランプは、より公平だと自らが考える貿易枠組みに中国を追い込もうとした。報復の応酬を経て貿易合意に至ったものの、アメリカが最も強く懸念していた問題の一部は解決していない。
この経験と、トランプと向き合う中での同様の経験は、北京が引き下がるのではなく、同じように応じるという決意を強めるだけだった。
スタンフォード大学フリーマン・スポグリ国際研究所のフェロー、オリアナ・スカイラー・マストロは、「政権発足初期に中国当局者と話した際、『聞いてほしい。われわれが学んだ教訓はたった1つだ。何があっても譲歩してはならない。屈すると、状況は悪化するだけだ』と語っていた」と語った。
「中国は心配していない。要求に応じなければ、イランやベネズエラのように攻撃されるかもしれないと考えるような国ではない。中国は国としての規模も軍事力も大きいためだ……人々は狂人理論をさまざまな形で使うが、それは中国側に『この男と合意しなければ悪いことが起きる』と思わせるほどの力を持っていない」
また彼女は、「中国は、アメリカが別の状況で武力を行使するかもしれないことを非常に信頼できるものとして受け止めている」と論じ、譲歩を得るために不安定化を招く行動をちらつかせているとした一方、両国はむしろ互いに丁寧な態度を保ち、特に台湾のような火種となる問題で均衡を崩そうとする試みは避ける可能性が高いと予測した。
「中国がトランプを操ろうとするのではないかという憶測は多い。トランプは何を言うかは分からないので、台湾について何か言わせるように仕向ける、といったことだ……しかし、それは非常にセンシティブな問題だ。中国はこの問題についてのリスクを非常に恐れる。中国がトランプに台湾問題についての話をさせたいとすら思っていないと考えている」
中国が自信をつけている?
戦略国際問題研究所(CSIS)の中国研究部門フリーマン・チェアのシニアフェロー、ヘンリエッタ・レビンも、トランプの再選以降、中国からより大きな自信が生まれているとみている。
米国務省と国家安全保障会議の上級職で中国政策を担当した経験を持つレビンは「第2次トランプ政権発足時、中国には米中関係にもたらされる不確実性の度合いをめぐる大きな不安があった……しかしこの1年で、その当初の懸念は概ね自信に取って代わられた」と語った。
「中国は、自分たちが貿易戦争に勝ち、トランプを後退させたと感じている……中国がレアアース供給をめぐる優位を交渉カードとして使うと、トランプはすぐに関係修復に動いた。その後もトランプの発言は融和的だった。こうした経緯から中国は、トランプが貿易戦争を2025年の最も激しかった局面に戻すことには消極的だと見ている」
それでもレビンは、トランプが世界の他地域で破壊的な政策を追求し続けるなら、先には潜在的な落とし穴があると指摘した。
「イランに対するトランプの軍事行動は、中国経済にとって現実のリスクをもたらす。中国は最近のエネルギーショックの影響を比較的受けていない。しかし、中国経済は輸出に依存している。戦争が世界経済の成長を押し下げれば、その分、中国にとっても打撃となる」
「狂人戦略」の有効性は?
これまでの米中首脳会談の展開を見る限り、トランプが好む「狂人」戦術の限界を示しているように思える。
「狂人理論」についての著作があり、国防情報局の上級分析官を務めた経験もあるペンシルベニア州立大学のローザンヌ・マクマナス教授(政治学・国際関係学)は本誌に対し「トランプの『狂人戦略』は、彼が何をするかを予測しにくくする……それは敵対者を緊張状態に置くうえで一定の効用を持つかもしれないが、交渉と協力に必要な信頼と予測可能性を損なう可能性もある」と指摘する。
「習は、トランプが首脳会談で求めるものが、6カ月後にも彼にとって優先事項であり続けるとは信じていないかもしれない……1つの問題で譲歩しても、トランプが近い将来にまったく新しい要求を持ち出すことは防げないと考えている可能性もある」
「狂人戦略」に関するトランプ自身の実績はまちまちである。ベネズエラやイランでは恐怖を植え付けられたかもしれない。しかし、イラン戦争はトランプの思惑を離れて拡大し、イランによるホルムズ海峡への締め付けで世界のエネルギー市場が混乱に陥るなど、新たな問題をもたらしている。
第1次政権期には、北朝鮮に向けられた核をちらつかせる「炎と怒り」の威嚇によって、金正恩最高指導者との歴史的な首脳会談を実現した。しかし最後には相互不信が勝り、双方は合意のないまま帰路についた。その後も外交上の突破口は開かれていない。
歴史上のほかの「狂人」たちにとっても、成功は一時的なものにとどまってきた。
マクマナスは、冷戦初期の対立の一つである1958年のベルリン危機において、アメリカが最終的にソ連首相ニキータ・フルシチョフの核による威嚇に逆らったことを振り返った。イラクのサダム・フセインやリビアのムアンマル・カダフィのような者たちは、その虚勢がさらに致命的な形で裏目に出た。
マクマナスは「アメリカ自体は、そのような外国の軍事介入に対して脆弱ではない。しかし、『狂人戦略』を堅持すると、トランプが信頼を築き、持続的な合意を確保する能力を損ない得る」


