トランプが巧みに操る「2つの顔」
上述した『Foreign Affairs』の記事では、トランプ大統領の対中姿勢について独特の「曖昧さ」があると指摘されている。
たしかに、トランプ大統領には2つの顔がある。
一方では、中国に対して非常に強硬な顔だ。貿易赤字、技術移転、知的財産、製造業流出、サプライチェーンの中国依存に強い不満を持っている。
その一方で、トランプ大統領は首脳同士の大きな取引を好む。「自分と習近平なら話をつけられる」と考えるタイプの政治家である。その場合は、強硬な顔は棚上げされて、あたかも昔から親しい友人であったかのように友好的になる。そういう観点からも、トランプ大統領の対中姿勢には二面性がある。
ただし、二面性があるだけで「曖昧」と決めつけるのは危険だ。
第一次トランプ政権を思い出してほしい。当時も、最初は習近平氏との友好関係が大きく演出された。2017年の首脳会談では、両首脳の個人的関係が強調され、米中関係の安定が語られた。
だが、その後に起きたのは対中融和ではなかった。トランプ政権は、中国の技術移転、知的財産侵害、貿易不均衡を問題視し、対中関税へと踏み込んだ。第一次政権で通商政策ブレーンだったピーター・ナバロ氏に象徴される対中強硬論が政策に反映され、米中対立は一気に先鋭化した。
つまり、トランプ大統領にとって友好演出は、対中融和の証拠ではない。むしろ、相手から譲歩を引き出すための前段階である可能性が高い。
トランプ大統領は、対中融和派でもなければ、単純な対中強硬派でもない。より正確には、友好演出と圧力を使い分ける徹底した「取引主義者(トランザクショナリスト)」なのである。
米中対立はすでに構造化している
今回と第一次政権には大きな違いがある。
第一次政権の初期には、まだ米中関係をどう組み替えるかという段階だった。中国を世界経済に組み込み、巨大市場として利用しながら、同時に不公正な慣行を一歩ずつ是正させるという発想も残っていた。
現在は、米中対立は完全に「構造化」しており、前提条件が大きく変わっている。ハイテク、軍事、地政学、エネルギー、すべての領域における対立は固定化されており、世界は「いかに対立するか」という第二フェーズに入っている。
今回の米中首脳会談は「関係改善」の出発点ではない。すでに対立構造ができあがった後で、その破局を一時的に抑えるための防波堤だったと見るべきである。トランプ大統領は中国と融和したいのではなく、中国との本格対決のタイミングをコントロールしているのだ。
