“トップへの根回し”だけではNG

これら、誰がどのような作用を及ぼしているかを読み違えると、たとえ完璧な対話を実現しても、場全体の流れのなかで意図が曲げられたり、不具合が生じたりします。一方で、場の関係構造を踏まえたうえで調和を実現できれば、一対一の合意が「場」全体へと広がり、不変の調和を実現できます。

「場を読む」の次に必要なのは、その「場」を前もって整えておくことです。これは「戦略的根回し」の核心になります。あとから余計な衝突を生まないために、事前に必要な配慮を済ませておくわけです。

特定の相手との対話とは異なり、複数の人々が関係する場では、おおやけの場でのやりとりより、事前にどれだけ個別の調整を行ったかが、結論を大きく左右します。

つまり戦略的根回しとは、結果を恣意的に操作するよりも、結果が「場」に馴染むように事前に整えておく行為です。

もっとも重要度の低い打ち合わせ程度であれば、事前に、次のような「短い確認」を済ませるだけでも、場の流れを変えることができます。

・決定権者にだけ、懸念を先に聞いておく
・強い影響力を持つ参画者にだけ、仮のすり合わせをしておく
・場の空気を左右しがちな影響者に、「重要な論点はここです」と共有しておく

たったこれだけでも、打ち合わせの場で「初めて聞いた」という不意打ちを避け、場が混乱せずに総意を得やすくなることは、経験ある人も多いはずです。

グループセラピー
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「自分が関わっていない意見」には反発される

ですが、もっと大々的な「場」を前提とする場合は、根回しによって「流れをつくる」ことが重要になります。そこで、「決める前に探り、進める前に聞き、動く前にすり合わせる」という流れを意識することが重要になるのです。

これはネガティブな「裏工作」ではなく、公然と調和を整えるための「配慮」です。たとえば、事前に影響力のある人とすり合わせるだけで(事前にすり合わせなかった場合に)明確な反対を突きつけられるであろう「地雷」の位置を把握することもできます。

根回しをしない場合にありがちなのが、「本番で戦う必要など、実はなかった」というケースです。

根回しの本質は、「争い」や「対立」ではなく、関係者の立場を尊重し、前向きな一体感を生み出すことにあります。少しいやらしく聞こえるかもしれませんが、人は、「自分が事前に関わった意見」であれば、ある程度、前向きに協力しようとするものです。一方で、自分が関わらないところで固まった意見には、必要以上に反発します。

「戦略的根回し」とは、相手を説得したりして味方につけるというよりは、相手を「共に創る」側に巻き込むイメージです。そのためには、

「あなたが必要だ」という印象
「あなたの視点を知りたい」という寄り添い
「あなたのおかげで場が良くなる」という意味合い

京都という土地には、こうした振る舞いが求められる場面が少なくありません。実現できれば、場の空気も驚くほど良くなります。このように「戦略的根回し」は、壊れた関係を修復する「事後調整」ではなく、「場」にとって、前向きな関係を創り出す「事前調整」の技術です。