「織田の対等パートナー」は幻想だった
この取りかえしのつかない自爆テロの被害を補うための方法が信長との同盟であった。でも、これこそが終わりの始まりであった。
お市と婚姻した当初はまだマシである。同時代の視点で見れば信長は、ようやく尾張・美濃の二か国を押さえた段階の中規模大名である。この時点での同盟のメリットをプレゼンするなら、長政の口からはこう語られたはずだ。
「皆の衆、よく聞いてくれ。織田殿と手を組めば、まず長年我らの脇腹を脅かしてきた美濃の斎藤を、東西から挟み撃ちにできる。我が家にとっても大きな利益じゃ」
「のみならず、観音寺城の六角は織田殿にとっても上洛の邪魔者。利害は完全に一致しておる。我らだけで六角と渡り合うより、はるかに有利な戦が打てるというものよ」
「そして——ここが一番肝心なところじゃ。織田家はまだ我が浅井家と、少し格上くらいの感覚で組める相手。婚姻同盟というのは、対等の同盟者として両家を扱うことが前提じゃからな。これによって我らは内外にこう示せる。『浅井は六角の風下から脱した独立大名であり、織田の対等パートナーである』——とな」
家臣たちは膝を打つ。「殿、見事な戦略でございますな!」なにしろ基本が村からもあんまり出たことのない、お山の大将の集団である。視野は狭いが、自分の村と田畑のことには異様に詳しく、誇りも高い。
織田に飲み込まれる、長政の誤算
そんな連中がここぞとばかりに盛り上がる。
「いやあ、やっぱ先代は酷かったよなあ」
「そうそう、いつまで六角に頭下げてんだって話だ」
「俺ら、もう六角の手下じゃねーんだよ!」
「若殿、マジで最高っす!」
「織田の妹も嫁に来るし、もう浅井家、勝ちっしょ!」
彼らにとって織田信長は「うちの殿の義兄になった、ちょっと景気のいい隣の社長さん」程度の認識でしかない。信長がこの先、わずか数年で日本史を動かす怪物に変貌するなど、想像もつかなかったのだ。このとき久政が何を考えていたかは、史料には残っていない。しかし想像はつく。
「お前ら、その同盟、うまく着地できるんだろうな……?」
しかし、そんなことを意に介すような連中ではない。彼らがイケイケで盛り上がっている数年のうちに、状況は一変する。信長は「ちょっと景気のいい隣の社長さん」から「畿内の覇者」に変貌したのである。
長政の表情は、おそらく徐々に引きつっていったはずだ。
「あれ……? 対等のパートナーだと思ってたのに……俺、これ、飲み込まれる側じゃない……?」

