同郷の先輩や店主からの「紹介の輪」

一方、黄さんは新人の頃、担当企業に加え、営業所内で引き継ぎがなく放置されていた個人顧客(100人程度)を会社から受け持たされ、コツコツと挨拶して歩いた。

相手は全員日本人だったが、古い保険内容を見直して新しいプランを提案すると、加入してくれる人もいた。丁寧に仕事をすれば、必ず顧客は向き合ってくれると実感し、仕事の醍醐味を覚えたという。

そんなとき同郷会に参加したところ、旧知の先輩女性から「ちょうど夫が生保を検討中」といわれ、改めて商品の説明に行った。すると一気に3件も加入してくれた。

「それまで私は宴席などでも仕事の話はしないようにしていたのですが、その先輩は、『もっと自分からアピールしたほうがいいよ』といって、何人も同郷の人を紹介してくれました。

また、ある中華総菜の店で売っている涼皮リャンピー(小麦粉などを原料とした半透明の麺)が気に入って、私はその店に3年くらい通い詰めていました。

すっかり顔見知りになった中国人の店主から、ある日、『ところで黄さんはどんな仕事をしているの?』と聞かれ、答えたところ、『営業なのに、これまでよく黙っていたね。商品を教えてよ。黄さんがやっている生保なら絶対に安心。ぜひ入りたい』といってくれたんです。結局、その方の紹介だけで30人の中国人が加入してくれました」

日本人には発掘できない「潜在ニーズ」

別の大手生保に勤務する李さんの場合はもう少し積極的だ。李さんは直接つながりがなくても閲覧できるインスタグラムのような中国のSNS、小紅書シャオホンシュー(REDNOTE)で保険商品の事例紹介や顧客からの反応などを発信している。それを見た中国人から直接メッセージが届く。

また、都内の中華物産店や中華料理店の知り合いには、生保に興味のある人がいたら、自分の名刺を配布してほしいと頼んでいる。

「美容院やマッサージ、ネイルサロンなど、顧客がある程度限定されているお店は効果的です。施術しながらお客さんと2人きりで会話するので、生保に興味がありそうな人かどうかがすぐにわかるので。池袋(東京)には少なくとも20軒以上、中国人専用の美容院があって、そこに声を掛けています。貿易会社には法人契約してもらうこともあります」

李さんによれば、日本人は保険営業からの連絡を面倒に感じる人が多い一方、在日中国人の場合、むしろ声を掛けられるのを待っているのではないか、と感じるケースが多いという。

私が取材した中国人営業社員たちは、「日本語が不自由だったり、たとえある程度話せても、生保商品の内容を理解するのは難しく、日本人に説明してもらう機会がほとんどない。だから生保に加入したいのに検討できないという『潜在的ニーズ』が多いのではないか」と語る。