条例が証明したもの

とはいえ、日本にも見落とされてきた「空白」がある。文科省の「持ち込み禁止」行政指導が守ってきたのは「授業中」だけであり、放課後・家庭でのスマホ使用については、国はこれまで有効な手を打ってこなかった。

冒頭で触れた豊明市は、条例施行から半年後の2026年3月、市内の小中学生4313人と保護者2441人へのアンケート結果を公表した。

数字は現実を突きつけた。

中学生の65%が余暇にスマホなどを1日2時間以上使用し、中学生の46%が睡眠時間7時間以下。スマホ使用により寝るのが遅くなっている子どもが小学校高学年で約3割、中学生で約4割にのぼった。

「2時間」という目安の根拠について市長はこう説明した。「これは睡眠時間から逆算しています。小学生は10時間の睡眠が望ましく、朝7時に起きるには夜9時にはベッドに入らないといけない。学校・宿題・風呂・食事を済ませると、自由になる時間は2時間ほどしか残りません」。つまり、2時間以上のスマホ利用は生活リズムを狂わす要因になるとの見方だ。

大人も含めねば子どもは納得しない

データにはもう一つ構造的で深刻な問題浮が上した。東北大学・榊浩平助教(脳科学)はアンケートへのコメントでこう指摘した。

「2時間以上使用している子どもたちは、親のデジタル機器の使用時間も同様に長いという関係も示されました。決して、子どもだけの問題ではないのです」

大人も含めなければ子どもは納得しないという市長の判断を、条例施行後半年後のデータが証明した。この条例制定によりスマホなどの使用方法を家族間で話し合った世帯が約2割、意識するようになった割合は24.5%。条例が強制力のないものだったとはいえ、大人と子どものスマホ利用を巡るあり方に一石を投じたのは確かなようだ。

停車した車の中で子供に地図を表示したタブレット端末を見せている母親
写真=iStock.com/wanakit waeonphachai
※写真はイメージです

慣行から制度へ

豊明市の試みが示したのは、国が手をつけてこなかった「学校の外」という空白の大きさだ。文科省の指導が及ばない放課後・家庭という領域で、子どもたちのスマホ依存と睡眠破壊は静かに進行していた可能性が高く、条例はその状況を可視化し、家族の対話を促した。

市長は筆者のインタビューの終盤、他の首長たちの反応についてこう語った。

「親しい首長さんたちからは、『よくやった』と言っていただきました」

そして国レベルの議論についてこう付け加えた。

「自宅でのスマホ利用に関しては少なくとも国レベルで議論すべきだと思います。国が全国の小中学生にタブレットを配っている以上、その責任を持って議論していく必要があるはずです」。

2009年から「学校へのスマホ持ち込み禁止」という制度で教室の規律を守り、世界的な学力低下の波にのまれなかった日本が、今まさにその制度の外側(家庭・放課後)に踏み出そうとしている。総務省もこの4月、SNS年齢制限の検討に入った。

デジタル教科書の導入議論も、豊明市の条例も、「(学校内だけでなく自宅での時間を含めて)デジタル機器を何に使い、何から遠ざけるか」という問いかけをしている。その問いの本質から目を逸らし、「デジタルか紙か」と単純化して議論するのは、恐ろしく的外れなことではないだろうか。

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