「遅れ」と「禁止」が防波堤に
上記のように北欧諸国がデジタル化を先行して進め、学力スコアが低下した。では日本はどうかと言えば、学力低下を免れている。
PISA2022(参加81カ国・地域)で多くの国が軒並みスコアを落とすなか、日本は「読解」「理科」で統計的に有意な上昇を記録し、「数学」も微増した。
また、OECD加盟国の中では、日本は数学的リテラシー1位、科学的リテラシー1位、読解力2位(全参加国ではそれぞれ5位・2位・3位)と、3分野すべてで前回2018年調査から水準を維持・向上させた。
背景には二つの要因が考えられる。
一つは文部科学省がGIGAスクール構想を立ち上げたものの、その実装が「遅れた」こと。もう一つは文科省が2009年から維持してきた「小中学校への携帯電話・スマートフォンの持ち込み原則禁止」という行政指導の存在だ。
81カ国で最も低かったのは日本
2009年から小学校では原則禁止が維持され、中学校でも2020年に条件付きで持ち込みが容認されたものの校内使用は禁止という枠組みが続いてきた。授業中の教室からスマホが遠ざけられていた期間は、およそ15年以上に及ぶ。これが、授業中の規律を守り、児童・生徒の学力維持・向上に寄与した可能性がある。
さらに注目したいのはPISA2022における「数学の授業中に自分がデジタルを使っているために気が散っている」と答えた生徒の割合だ。参加81カ国で最も低かったのは日本だった(5.1%、OECD平均30.4%)。
この調査はGIGAスクール構想による高校の1人1台端末整備が完了する途上で実施されたものあるとはいえ、ICT活用が進むなかで授業中の「気が散らない=集中できている」状態が保たれていたということだろう。
サンディエゴ州立大学のジーン・トゥウェンジ教授らは、36カ国の15〜16歳を対象としたPISAデータ(2006〜2022年)を分析し、授業中にデジタル機器を娯楽目的で使用する時間が長い国ほど、2012年から2022年にかけてのテストスコア(数学・読解・理科)の低下幅が大きかったことを示した。
あくまで「示唆する証拠のひとつ」と位置づける相関分析であり、因果を断定するものではない。それでも、デジタル教育で日本より10年先を行っていた国々のスコアが落ち、スマホ持ち込み原則禁止を維持し、各教科の授業でデジタル利用頻度が低い日本のスコアが上がったのは事実だ。
これが偶然の一致なのかは今後の研究が明らかにすべき問いだが、少なくとも「教室からデジタル機器を遠ざけることの意味」を問い直す十分な根拠になる。

