面接で「ブラック企業ですね」と言った結果
精神的に追い詰められた私は、ついに信条を曲げることにした。「保険」を作るために、一般企業を受けることにした。
冬からでも受験できる企業は意外と多い。私が選んだのは、とある企業の営業職。志望度は正直に言って低い。だが、この「行きたい企業ではないけれど受ける」という経験が、人生の大きな転機になった。
志望度が低いからこそ、私は落ち着いていた。集団面接では、本命がアナウンサーであることも正直に伝えた。周りが「どうしても御社に入りたい」と熱弁するなか、面接官がこう尋ねた。
「うちの企業のイメージは?」
他の学生は「やりがいがある」「実力主義で成長できる」とポジティブな言葉を並べる。一方、失うものが何もない私は、平然とこう答えた。
「ブラック企業ですね」
面接官から、どっと笑いが起きた。いまでこそ労働環境は改善されているだろうが、当時はその企業名を検索すると真っ先に「ブラック企業」という関連ワードが出てくる状態だった。全員が知っている事実をあえて避けて通るほうが、私には不自然に思えたのだ。
さらに「徹夜はできるか」と問われ、周囲が「体力には自信があります」「喜んでやらせていただきます」と勇ましく答えるなか、私は正直に返した。
「できればやりたくないですが、どうしてもというときには頑張ります」
相手に媚びず、かといって喧嘩腰でもなく、ありのままを言葉にした。
結果はどうなったか。私はその場で別室に通され、あっさりと内定をもらった。
どうしても入りたいと懇願した本命には相手にされず、志望度の低かった会社からはありのままの言葉で内定が出たのだ。
誤解しないでほしいのは、決して「横柄な態度」や「奇をてらった発言」を推奨しているわけではない。この時の勝因は、内定ほしさにすがりつく「悲壮感」がなくなり、飾らない「素のコミュニケーション」を取ることができたことである。
命綱があるから、バンジージャンプは飛べる
一つの企業の内定という「保険」を手に入れた瞬間から、本命であるアナウンサー試験のパフォーマンスは劇的に変わった。
「ここで落ちても、春から行く会社はある」その安心感は絶大だった。何よりのびのびとしゃべることができる自分に驚いた。面接官に迎合することなく、自分の素の面白さや正直さをぶつけられるようになった。保険内定を得てからわずか1カ月後、都内のローカル局のアナウンサーの内定を勝ち取ることができた。
私が長く苦しんだ原因は、結局のところ「退路を断つほうがカッコいい」という思い込みだった。
世の中を見渡せば、保険をかけながら成功をつかんだ人はたくさんいる。会社員として安定した収入を得ながら、休日にバンド活動や俳優業、お笑いを続け、大ブレイクした人は少なくない。退路を断たなかったからこそ、焦らずに自分の力を発揮できたという人もいるだろう。

