進化的に「新しい部位」ほど老化に弱い
ただし、脳全体が加齢によって同じように縮んでいくわけではありません。基本的には、進化的に「古い脳」、つまり脳の内側にある部位ほど縮みにくい傾向があります。つまり呼吸や心拍など生命の維持に不可欠な脳幹、運動のコントロールなどを担う小脳などは、ほかの部位よりも萎縮しにくいというわけです。
その理由はいうまでもないでしょう。これらの部分が老化し、萎縮してしまえば、生命の維持そのものに影響を与えるからです。だから、「古い脳」の部分は年齢が進んでもなかなか萎縮しません。
それらの「古い脳」と比べると、より外側にある大脳辺縁系や大脳皮質は早い時期から萎縮が始まります。
読者の中には、大脳辺縁系には記憶を司る「海馬」という部位があることをご存じの方も多いでしょう。大脳辺縁系が萎縮するということは海馬も萎縮する。「なるほど、だから年を取ると物忘れがひどくなるんだな」と思うでしょう。たしかに「物忘れ」は、いちばんわかりやすい老化現象です。
でも、だからといって大脳辺縁系の海馬がいちばん先に萎縮するわけではありません。それより外側にある大脳皮質のほうが人間進化の歴史ではいちばん新しいものです。だから、大脳皮質のほうが先に縮み始めます。
その大脳皮質の中でもとりわけ早い段階で萎縮を始めるのが、前頭葉にほかなりません。
前頭葉は早ければ40代から縮み始める
脳の萎縮は加齢だけが原因ではなく、脳の外傷や脳血管障害、アルコールの飲み過ぎや喫煙、ストレスなどさまざまな要因で起こります。また、生まれつき、つまりDNA配列の変異により萎縮が通常よりも早く始まる病気もあります。いわゆる若年性アルツハイマーがそれで、この病気の場合、脳の中にアミロイドベータというタンパク質が産生され、その結果、脳が萎縮し、記憶力のみならず生活能力の低下につながるとされています。
したがって、縮み方に個人差があることはいうまでもありません。早い人では、40代から縮み始めることもあります。
私自身、実際にそういう脳画像を見てきました。40代前半でも、頭蓋骨と前頭葉のあいだに大きな隙間が生じているものが何例もあったのです。
それは比較的レアケースですが、50~60代になると、前頭葉が大きく萎縮している人はめずらしくありません。いわゆる「高齢者」となる前から、前頭葉は縮んでしまうことが多いのです。
しかも前頭葉は、脳のほかの部位と比べて発達するのが遅いのも特徴のひとつ。人間の脳は、生まれた時点で完成しているわけではありません。誕生から20年以上もの時間をかけて発達し続けますが、その度合いは部位によって異なります。

