「80点の企画書で行動せよ」
丸紅には12の営業部門があり、世界各地に拠点があり、それぞれ商品も顧客もビジネスモデルも違う。そんな環境でトップとしてどう考えればいいのか。
答えは「現場と話す」ことだ。各営業部門の部門長である執行役員と直接話す。各部門の現状を把握し、自分の考えが正しい方向にあるのかどうかを確認し、ずれているなと思ったら、すぐに軌道修正をする。そうやって頭の中で情報を常にアップデートしておく。これが丸紅のトップとして物事を考えるうえでのスタートラインになる。
しかしながら、部下からのレポートだけでは、正確な情報のアップデートはできない。そういうレポートからは、往々にしていい話しか上がってこないからだ。そして、問題が発覚したときには時すでに遅しということになる。
例えば含み損が出たときも、早めの段階で、気軽に私に声をかけられる状況をつくり出すことが重要だ。常にこちらから話しかけ、部下から正確な情報を引き出すことができなければ、いつの間にか「裸の王様」になってしまう。
特に、情報の差がビジネスに直結する商社の場合、経営者が常に現場に入り込んでいないと、正確な思考も判断もできない。最新の情報を正しく把握できていなければ、考えようにも考える材料がないからだ。2001年、丸紅は危機的状況に陥った。今にして思えば微々たる利益に浮かれ、リスクマネジメントもできていない状態で1990年代を過ごし、00年代に入って丸紅は、巨額の負の遺産を一括処理せざるをえない状況に追い込まれた。
あのときは、全社員で大きな危機感を共有することで、どうにか乗り切ることができ、それからは危機に対して対応が素早くなった。私も執行役員として重要な学びがあったが、それは「どんな厳しい状況でも、強みを持つ分野は攻め続けることができるので、信じて攻め続けるべき」ということだ。