大島町はいろいろな状況を考慮したうえで「勧告を出さない」という判断に至ったのだろう。このこと自体は否定されるものではない。しかし、だからといって避難にかかわる情報を一切出さないという対応には違和感を持つ。自治体が何らかの危機感を持っていたとしても、何も情報を出さなければ、住民側には「避難勧告が出ていないのだから役所は安全宣言を出している」と解釈されてしまう恐れがある。
自治体にとって避難勧告を出すことはハードルが高いようだ。要因としては、管内各地の状況が十分に把握できないといった技術的な問題もあるが、一方では、避難勧告を出したにも関わらず大きな被害がなかった場合に住民から寄せられる苦情を恐れる、という問題もある。このような反応が存在することは確かだが、筆者が各地で行ったアンケートによれば、「避難勧告は空振りとなってもよいので早めに出してほしい」との回答が8割前後を占めている。避難勧告の空振りを責める声はけっして住民の多数派ではない。
避難勧告がためらわれる場合、その前段階として「避難準備情報」を出す方法もある。「避難準備情報」は災害時要援護者のためだけの情報ではなく、「避難に時間を要する人はそろそろ避難を、そうでない人も避難の準備をはじめてください」という意味の情報である。「不安を感じる人は避難してください」と理解してもいい。あるいは、「避難所を開設しましたよ」という情報を流すだけでも、普段とは違う緊張感を伝えることができる。
住民側もいろいろと考えておく必要がある。危険が生じた際には避難勧告が事前に出されるとは限らない。いつ、どこで、どのような災害が起こるかを世帯単位で予測・警告することは現時点ではほぼ不可能である。さまざまな情報を集め、危険だと思ったら最後は自分自身で判断し、行動するしかない。なによりもまず、居住地の災害に対する危険性を知っておくことが重要である。しかしながら、これがなかなか進んでいないのが実情である。筆者が今年、静岡市在住者を対象に行ったアンケート(※1)では、居住地が洪水の浸水想定区域に含まれる回答者で、「あなたがお住まいの地区は、次に挙げるような災害に対して安全だと思いますか(大雨・洪水)」の質問に対して「危険」または「やや危険」を選択した回答者は34%程度にとどまった。