――ユーザーの反応はどうか。また、業界はどう対応するのか。
【鈴木】全国のスズキ販売店を経由して、「弱い者を助けてほしい」と増税に反対する声がスズキに届いている。農協、商工会、商店街などから要望は強く寄せられている。政令指定都市である浜松市でさえ、サルやイノシシが出没する地域があるほどで、日本には山間部をはじめ軽でなければ入れない狭い道も多い。増税で本当に困るのは弱い立場の人々だ。
また、増税によって商品が売れなくなり逆に税収が減る可能性は大きい。現実に、ビール・発泡酒の増税でも過去に同様のことが見られた。軽が増税されれば小型車が売れると考えるのも単細胞だ。自動車市場全体が間違いなく縮小する。日本自動車工業会としては、若い豊田章男会長(トヨタ自動車社長)を中心に一丸となって軽自動車税を含めた車体課税の増税に反対していくことになっている。
――軽自動車は日本の独自規格であり、日本でしか通用しないガラパゴスなので、必要ないとの指摘もあるが。
【鈴木】それは違う。スズキはインドで年間100万台を販売しているが、このうちの5割は軽自動車だ。エンジンは660ccではなく、800ccから1000ccと大きいものを積んでいるが、これはエアコンを使う頻度が高いためで、車体は軽と全く同じ。その他基本部分も一緒である。今後、インドネシアやタイなど他のアジア諸国にも、軽の技術を生かした車を展開していく。エネチャージなどの環境技術も同様だ。
――世界的には車の環境性能が高い車ほど税率が低くなる傾向にあるが、規制が厳しくなる中、軽自動車はリッター30キロメートルを超える低燃費性能を実現している。
【鈴木】車体の軽量化やエンジンの改良をコツコツ積み重ねた結果だ。燃費性能は、さらに伸ばしていく。製造から廃棄までの期間で、使用されるエネルギー量やCO2の総排出量でも、軽自動車は環境に優しい。アジアの人々にとって、軽自動車は究極のエコカーだ。
――行政改革がなければ、地方税、国税を問わず増税は繰り返されるのでは。
【鈴木】行革の余地は大きい。私は浜松市の第一次行財政改革推進審議会(05年8月~07年3月)で会長をやったが、行政には無駄遣いが多すぎる。数多い外郭団体は天下りの温床だが、天下り的な仕事しかしていない。それでも給料は高い。かつて市役所の職員は給与引き下げを断行されたが、外郭団体は下げられなかった。民営化などの改革は必要。さらに問題なのは補助金制度だ。補助金の原資は税金なのに、補助金になった途端に役所が力を持つ。税金を納めた人が頭を下げて、補助金を受けようとする。この発想を変えなければ、日本はよくはならない。
1930年生まれ。中央大学法学部卒。中央相互銀行を経て、58年鈴木自動車工業(現スズキ)入社。67年常務。78年社長。2000年会長就任。08年から社長兼務。