反捕鯨派との溝が埋まらず脱退

ところがこの後、しばらくして捕鯨を巡る状況は一変する。世界的な海洋資源保護の潮流や、それに伴う欧米をはじめとした反捕鯨論の高まりにより、「鯨資源の適当な保存と捕鯨産業の秩序ある発展」を掲げて設立されたはずの国際捕鯨委員会(IWC)で1982年、商業捕鯨モラトリアム(一時停止)が採択された。

日本は「科学的根拠に欠ける」と異議申し立てを行ったが叶わず、調査捕鯨に転換。鯨肉の生産量は大幅に減少し、1989年には1000トンにまで急減したことで多くのスーパーから姿を消し、なじみ薄の食材となっていった。

適切な資源管理へ向けた調査捕鯨を継続しつつ、日本は商業捕鯨再開の道を粘り強く探ったが、「一頭たりとも捕らせない」という反捕鯨派との溝は埋まらなかった。

最終的に、「IWCにおいて鯨類および捕鯨に対する異なる2つの立場が共存する可能性がないことが明確化した」(水産庁)として、2019年6月末にIWCを脱退。同年、日本は領海と排他的経済水域(EEZ)で、資源評価に基づいて商業捕鯨を再開した。

その後はミンククジラやニタリクジラ、イワシクジラの捕獲に加え、2024年からは大型鯨類のナガスクジラも捕獲枠を新設し、年間で合計三百数十頭の鯨類を捕っている。

【図表1】日本の鯨肉生産量の推移
水産庁「鯨肉生産量等の推移 令和6年度(概算値)」よりプレジデントオンライン編集部作成

IWCの規制下にはないものの、日本の商業捕鯨は過去にIWCで採択された改定管理方式(RMP)を採用しながら、「100年間、毎年その頭数を捕獲しても、クジラの資源量は減らないレベルで設定している」と水産庁国際課の捕鯨室は説明する。

商業捕鯨の再開からまもなく7年がたとうとしている。だが、鯨肉の生産・流通量は今でも2000トンほどと、昭和期と比べるまでもないほど少ない。今やすっかり高級品と化し、若者では「食べたことがない」という人のほうが多いだろう。今後も専門店などでしか味わえない遠い存在のままなのか――と思いきや、今年に入って思わぬ情報を耳にした。

大手スーパーが20年ぶりにクジラベーコン販売

国内最大の鯨類生産を担う捕鯨会社・共同船舶(東京)の高野雄介営業部長が、同社主催の鯨肉商品PRのイベント会場で筆者に「今年から大手スーパーでも売り始めましたよ。風向きが変わってきたようです」と教えてくれた。

さっそく取材してみると、まず、ある大手スーパーでは、今年から都内多くの店舗で、およそ20年ぶりにクジラベーコンの販売を開始している。テスト販売という位置付けで詳しい取材はできなかったが、「売れ行きなどを見ながら今後の扱いを検討していく」と関係者は話した。

クジラベーコンは、脂がある皮の部分を塩漬けしたもので、一部を赤く着色している。薄切りしてあるが甘みと旨味が強く、ポン酢やワサビ醤油などで酒のつまみとして人気がある。チャーハンやサラダに入れて食べてもおいしいため、若者受けもしそうな食材だ。

甘みと旨味がたっぷり味わえるクジラベーコン
筆者撮影
甘みと旨味がたっぷり味わえるクジラベーコン