等倍返しが基本だと、相手は不法に手に入れたものを手放すだけなので、痛くも痒くもない。自分がプラマイゼロに戻るのはいいとしても、相手が何のダメージも受けないのは、どうも納得できない。その場合、可能なら刑事告訴する手もある。「処罰感情が強いなら、刑事告訴する。相手が許認可事業を行っている場合は監督官庁に訴える。そうなると、民事、刑事、行政で“3倍返し”です。民事で先に和解すると刑事裁判の量刑が軽くなる傾向があるので、相手にきっちり責任を取らせたいなら、刑事を先行させたほうがいい場合もある」(同)

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「損害賠償」のイメージ(日本の場合)

民事、刑事、行政の3倍返しは変化球だが、じつは、数は少ないものの、法律で倍返しがストレートに認められているものもある。労働者は解雇予告手当、休業手当、割増賃金、年次有給休暇手当の未払いがあったとき、企業に対して未払金に加え、それと同額の付加金を請求できる(労働基準法114条)。企業側は未払金の倍額を支払うことになるので、まさに「倍返」しだ。

一方、個人が国から倍返しされるケースもある。雇用保険の不正受給だ。虚偽の申告などをして失業等給付を不正に受給すると、政府は不正受給者に対して給付額の全額または一部の返還を命ずることができる。これだけなら等倍返しだが、悪質な場合は、さらに給付額の2倍相当額以下の金額の納付を命ずることができる(雇用保険法第10条の4第1項)。合わせると最大で3倍返しだ。

日本の法律では、「倍返し」は簡単ではない。しかし、国に損害を与えたときには容赦のない3倍返しが待っている場合もある。くれぐれも気をつけたい。

(図版作成=ライヴ・アート)
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