物事の考え方や受け止め方は変えられる
しかし認知療法では、これは「ある種の思考パターンのせい」、「物事の受け止め方のせい」だと考えます。
そして、「人の性格は変えられないが、物事の考え方や受け止め方を変えることはできる」という前提に立ち、思考パターンが変わるように治療をしていくのです。
うつ病患者は「白か黒か」「善か悪か」「敵か味方か」など、物事や他人を完全に2つにわける思考パターン(二分割思考)の人がいるのですが、認知療法では、治療者が「また二分割思考に陥っていますね」などと患者に自覚を促します。
そして、こうした決めつけには根拠がないことなどを説いて、その思考パターンを変えていきます。
自覚することが、不適応思考の抜け出すための第一歩であり、もっとも重要なことだからです。
かつて、精神分析の治療法は、人の性格を変えようとする時代が続きました。しかし、そうした治療法は長く時間がかかるわりに、必ずしもいい結果がともなわないことがわかってきています。
認知療法は、精神分析と比べると早く効果が出て、治療もうまくいくということで、現在では精神療法のトレンドは認知療法に移っています。
「自動思考」の暴走を、人は自覚しにくい
自動思考の内容は人によって違います。
たとえば、誰かの会話から自分の名前が聞こえてくると、「きっと悪口を言われているに違いない」と思い込んでしまう。
可能性としては、その誰かは自分のことを褒めていたのかもしれませんし、たまたまほかの話題のなかで自分の名前が出てきただけかもしれません。でも、自動思考にとらわれている人は、そういった可能性には頭が回らないのです。
「最近、皆がよそよそしい気がする」「あのとき飲み会の誘いを断ったからだろうか」など、ネガティブな記憶ばかりが再生され、ますます「悪口を言われているに違いない」という思い込みが強化されていきます。この一連の思考は自分では止めたくても止められません。
あるいは、彼女がLINEの返信が遅いというだけで「フラれたに違いない」と思い込む。はた目には「そうとは限らないんじゃない?」「手が離せない用事があるのでは?」と言いたいところですが、本人はいたって真剣です。「そういえば最近冷たい言動が多かった」などと、悪い記憶ばかりが再生されて、やはり止まりません。
悪い記憶が再生されるだけならまだいいのですが、自動思考が怖いのは、行動に移しかねないことです。
「おれを振るなんて、お前が浮気したんだろう」などとキレて彼女に詰め寄りでもしたら、本当にフラれるかもしれません。「フラれたに違いない」という勝手な思い込みから始まった自動思考ですが、最終的にはそのような現実を引き寄せてしまうのです。
自動思考のポイントになるのは、「本人はいたって中立的に考えている気になっているのに、じつは不適応な思考に振り回されている」ということです。
そう、本人は冷静に論理的に考えているつもりなのです。
ところが実際には、脳に「バグ」のようなものが生じていて、じつは最初から答えが固定されてしまっている。「考えているつもりで考えていない」のが自動思考でもあります。
認知療法で、「また自動思考に陥っていますよ」などと指摘をすることで、本人に自覚を促し、思考にとらわれていることを気づかせるような方法がとられるのは、そのためです。患者は、自分1人で考えていると、自動思考でどんどん悪いほうへ悪いほうへと考えが止まらなくなってしまうのです。

