プロモーションも足りなかった

また、アカデミー賞は北米の独特な評価軸によるアワードでもある。

投票権を持つアカデミー会員向けのロビー活動(キャンペーン)として、試写会イベントの実施や、バラエティやハリウッド・レポーターなど映画業界誌への広告出稿など、映画会社が多額の予算を投じて、作品をアピールするのが慣例になっている。

『パラサイト』は、もともとエンターテインメント輸出を国策として掲げる韓国関係者による積極的なキャンペーンも功を奏したと言われている。それとは対照的に『国宝』は、トム・クルーズがサポートした特別上映会による売り込みがあったほかは、後手に回ったことが伝えられている。

アカデミー賞は、北米映画業界の商業性と芸術性が絡み合う特有の視点で、相対的に評価される賞だ。加えて、アカデミー会員の好みの作風の傾向がいくつかあり、それが評価につながる土壌がある。

純粋な作品性だけの評価ではないところに、世界の主な国際映画祭とは異なる難しさがあり、一方でその栄誉による商業的な影響は極めて大きいことから、熾烈な競争の場になっている。

国内では記録的なヒットとなり圧倒的な評価を受けた『国宝』が、本家アカデミー賞では惨敗に終わった背景には、そんな事情がある。

日本映画の海外進出の課題とは

映画は、そのときの世界情勢と時代性が大きく影響する、社会とリンクするエンターテインメントであり、その時勢が国際映画祭での評価に直結する。数年前から企画が進行する映画は、言ってしまえば、運によるところも大きい。

そんななか、日本映画の海外進出の課題として挙げるとすれば、前述のような社会批評性と普遍性とリンクする共感性をいかに両立させて、国境や文化を超えた多様な人々の心に刺さる、日本ならではの物語を紡ぐかだろう。その成功例としては、経済格差の底辺に生きる人々を描いた是枝裕和監督の『万引き家族』(2018年)がカンヌ国際映画祭で最高賞を獲得したことが挙げられる。

ただ、Netflixやディズニープラスなどのグローバルプラットフォームでは、ローカルこそグローバルの興味を強く掻き立てる傾向があり、そういった作品がワールドワイドでヒットしている。『国宝』はまさにそのポテンシャルが高い。この先の配信からのさらなる世界的な評価の高まりも期待できるのではないだろうか。

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