※本稿は、弘兼憲史『弘兼流 人生は後半戦がおもしろい』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
定年後の熟年離婚を避けるには
定年退職後、考え直すべき重要な問題に、夫婦関係があります。
在職中から仲睦まじい夫婦にはその必要はありませんが、ここ数年、妻に触れたこともない、ロクに話もしたことがない――という夫であるならば、退職後に何の変化もないと考えるのは難しい。多少の波風が立つことを、覚悟しておいたほうがいいかもしれません。
妻に声をかけるのは「今日は遅くなる」「食事は済ませてくる」「風呂沸かしといて」「土曜日はゴルフだから」といった“連絡事項”だけで、家のことはすべて妻に任せきり。台所に立ったことはないし、自分のワイシャツや靴下がどこにしまってあるのかもわからない――といった夫は少なくありません。
「俺が家族を養っている」という時代遅れの考えが、そうさせるのでしょう。妻のほうは、そんな夫に嫌気がさしているのですが、“給料を持ってくる存在”として諦め、子供のために我慢しています。
ですが、貴重な“かすがい”であった子供が独立し、夫が定年退職を迎えれば、夫婦をつなぎとめるものは何もありません。妻からすれば、理不尽な夫に我慢する理由がなくなってしまうのです。だからこそ退職の前に、「果たして俺は、妻にとって価値がある男だろうか」――と考えてみてほしいのです。
「妻が気に食わない」夫に起こった悲劇
『アバウト・シュミット』のシュミットは、そんなことには思いもよらず、結婚42年目の妻「ヘレン」のすべてにイラついていました。くだらない物を集めたり、異常なほどに新しいレストランを試したり、自分の話を遮ったり、座り方や体臭に至るまで、とにかく気に食わないのです。
それでも、妻はシュミットを愛していたのか、夫が退職したらキャンピングカーで各地へ出かけ、二人の時間を楽しもうとしていました。ところが、退職の数日後、そんな妻が脳梗塞で急死してしまうのです。
葬儀のために、遠い街で暮らす一人娘が、結婚式を間近に控えた婚約者とともに帰郷しました。葬儀の後、シュミットは愛娘に「しばらく残って自分の世話をしてほしい」「喪中なのだから結婚式を延期してほしい」とお願いしますが、娘は「延期はできない」「パパ、一人暮らしに慣れないとね」と言い残して帰ってしまいました。
何一つ家事のできないシュミットの生活は、日を追うごとに荒れていきます。食事は、買い溜めしたピザなどのインスタント食品ばかり。掃除もできないので、家中はゴミだらけ……。そこでようやくシュミットは、妻の存在の大きさに気づくのです。

