「かつて習は(ドナルド・)トランプ(米大統領)に『米中関係を改善する1000の理由がある』と言った。張の国家機密漏洩疑惑についても、張を陥れる1000の理由がある」と、シンガポール経営大学のヘンリー・ガオ教授(法学)はX(旧ツイッター)への投稿で述べた。
「その理由はどれも国家機密漏洩とは無関係だ」と、ガオは付け加える。「最も信憑性が高いのは、ハイレベルの情報戦を仕掛けたという解釈だ。張の仲間、特に党指導部や軍内の同調者に圧力をかける目的で、外国メディアに偽情報を流している」
シッシも同意見だ。「張の主な過ちは、事実かどうかはともかくとして、スパイ行為でもアメリカに機密情報を伝えたことでもない。派閥を形成したことだ」。中国の国営メディアなどが、体系的な政治的ダメージをもたらしたと張を非難しているのがいい証拠だという。「少なくとも習はクーデター計画があったと見なした」
米ワシントンのシンクタンク、ジェームズタウン財団のピーター・マティス会長が指摘するように、はっきりしているのは、張と習の政治的関係の重要性だ。
「台湾統一」を実現できる軍か
1979年の中越戦争に従軍した経験のある張は、軍内で高く支持されている。習にとって、自身に匹敵しかねない権力を持つ者は誰であれ警戒の対象だ。「張と習の関係はほぼ確実に、中国共産党内で最も重要な人間関係だった」と、マティスは本誌に語る。「人民解放軍における非『習系』の権力の最後の体現者が張だった……そうした独立した権力の形を、習は許容しない」
中国軍の能力についてはどうか。これほど多くの軍高官が排除されたのだから、影響は大きいはずだ。
「中国共産党の初期の使命や『中華民族の偉大な復興』を、習は繰り返し説いている。反汚職キャンペーンの焦点は、国内外の闘争に対して党の備えを固めることにあった。習は当初から、権力維持だけでなく、そのさらに先に目を向けていたようだ」と、マティスは言う。
「なぜ権力を追求するのか。なぜ強固で統制の取れた党を求めるのか。それらの疑問から必然的に浮かび上がるのは、軍事力の課題だ。27年に中国が台湾に侵攻するとの説があるが、武力統一を実現する上で人民解放軍は多くの問題を抱えている」
中国の軍最高指導機関の権力シフトは、米中関係にも影響を及ぼす可能性がある。4月にトランプの訪中が予定されるなか、米国防総省は1月23日、国家防衛戦略を公表。「対立ではなく力で」中国を抑止し、地域の「ある程度の平和」を目指すという。その一方で、台湾を対象に含む「侵略を拒否する軍事力を構築する」としている。
戦争か、平和か――今後の展開に重大な意味を持ちかねない地政学的変動である今回の出来事は、熟練の中国ウオッチャーであっても読み解くことが難しい。「狙いは権力なのか、軍事力なのか」と、マティスは問いかける。「粛清の目的が、その両方であってもおかしくない」


