単なる「SNS戦略」で片付けてはいけない

今回の教訓は、田久保氏個人にとどまらない。いや、というよりも、彼女は、あくまでもここ数年の日本における選挙の風潮を象徴したに過ぎない。それは、制度「ハック」とも言える流れである。正確には、こうした流れを「SNS戦略」などとして「分析」したつもりになっているメディアの潮流こそ、問われなければならない。

代表的なのが政治団体「NHKから国民を守る党」の手法だろう。同党は、公選法の抜け穴を突くようなやり方を繰り返してきた。当選を目的とするというよりも、選挙の仕組みを利用する手法は、「選挙ハック」とも呼べるのではないか。

2020年の東京都知事選挙では、実業家の堀江貴文さんを擁立していないのに「ホリエモン新党」を名乗った。2022年参院選では「選挙区での立候補者は当選を目的としていません」と公言し、得票を政党助成金稼ぎの手段だと動画で説明していた。2024年都知事選では「ポスター掲示板をジャックせよ」と呼びかけ、団体への寄付者が自由に作ったポスターを使えるとした。

その手法が、もっとも議論の的となったのは、同年の兵庫県知事選挙だった。立候補した党首の立花孝志氏が「僕に(票を)入れないでくださいね」と訴え、斎藤元彦氏の「疑惑」を否定する演説をくりかえした。斎藤氏は「オールドメディア」からの批判をものともせず圧勝した。

2024年7月6日、NHK党選挙カー
NHK党の選挙カー(写真=Bject/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

テレビや新聞では、こうした傾向を「SNS戦略」などと訳知り顔、というか、悔しそうな顔をして「分析」する識者が蠢いている。そうした粗雑な総論で事足れりとするのではなく、今回の伊東市長に関する一連の騒動のように、一つひとつの事情や経緯を丁寧に検証しなければならないのではないか。

「1票」にどんな思いを託しているか

田久保氏について、私たちが語りつづけてきたのは、単に「学歴詐称」がけしからん、許せない、といった直情径行ではない。

「学歴詐称」疑惑に始まり、百条委員会をめぐる騒動を経て、不信任決議案が可決され、約半年での再選挙に至った。

にもかかわらず、対抗勢力と戦う「人口6万人の自治体の救世主」かのような顔をして市長の座に居座りつづけたのは、制度「ハック」のひとつだったと言えよう。「NHKから国民を守る党」も彼女も、たしかに「SNS戦略」を持っていたのかもしれない。

しかし、その手法には、選挙や地域に応じた違いがあり、一貫しているわけでもなければ、全てが成功しているわけでもない。

伊東市での刑事告発や、出直し選挙、そして、今回の「書類送検」に至る流れは、本当に彼女がその自治体のトップにふさわしいのかどうかを問い直す貴重な時間にほかならない。この時間は、伊東市にだけにも田久保氏だけにも限定されない。私たちが、一票にどんな思いを託しているのかを常に問い返すきっかけになったのではないか。

それは、メディアに飛び交うや「SNS戦略」といった乱暴な「分析」では解明されない、もっと尊く、ずっと繊細な心情ではないか。この点においてこそ、警察当局がまず「地方自治法違反」で「書類送検」した意味があり、そして、私たちがこの件について関心を抱きつづけてきた理由がある。

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