上司からの評価が高い職場のエース的社員が突然退職するケースは少なくない。なぜ、そのような現象が起こるのか。企業の組織改革のコンサルティングを手がけるブレインマークスの代表・安東邦彦氏は「優秀な社員のドミノ退職も招いてしまう根本原因には、実は上司も経営者もまったく気づいていない悪しき構造がある」という――。
なぜエース社員が突然退職するのか
「今は正直、人が足りない。落ち着くまで、もう少し踏ん張ってほしい」
現場の上司が、部下にかける何気ない一言です。責めているわけではない。むしろ信頼しているからこその言葉でしょう。しかし、この“善意の励まし”が、最も誠実な社員を静かに絶望させ、やがて組織を揺るがす引き金になっているとしたらどうでしょうか。
なぜ会社が「正念場だ」と言うときほど、優秀な人から音もなく去っていくのか。
なぜリーダーの善意は、部下にとって“最後の一押し”になってしまうのか。
問題は、根性でも、世代論でもありません。構造です。そしてその構造は、多くの場合、経営者自身も気づかないまま温存されているのです。
静かな絶望の瞬間
ある中堅BtoB企業での出来事です。Aさんは30代前半の営業主任。地方都市のオフィス街にある本社で、大口顧客を複数担当していました。年間目標は毎年達成。数字に大きな波はなく、安定感がある。難しい案件ほど彼に回される。
クレーム対応も、トラブル処理も、最後はAさん。夜遅くまでオフィスの灯りが残っている日、最後までパソコンに向かっているのは、たいてい彼でした。精神的な支柱でもあり、社内ではこう言われていました。
「Aがいれば、何とかなる」
信頼の証しです。同時に、仕事が集中している証しでもありました。

