実際に、2025年に入って中国籍の投資家が米国債離れを強めたが、その流れと歩調を合わせて人民元高米ドル安が進んでいる(図表2)。具体的には、2025年頭に1米ドル=7.2人民元弱だったのが、2026年に入って7人民元を打ち抜き、6.9人民元台に突入した。長年にわたり通貨安を追求してきた中国が通貨高を容認しているわけだ。
2025年に米国で再登板したドナルド・トランプ大統領は、中国に対して強い圧力をかけている。その裏で、対米ドルで“安い人民元”を志向してきた中国が、遂に“強い人民元”を受け入れてまで“ドル離れ”を着実に強めていたことになる。なお、安い米ドルよりもさらに安い日本円の対人民元レートもこの間約15%の人民元高だ。
対ユーロでは人民元安トレンドが続く
中国は供給超過であり、需要不足の経済である。そのため、低金利で国内需要を刺激するとともに、通貨安で輸出を促すマクロ経済運営を続けてきた。国際金融のトリレンマに基づけば、金融政策の自由と為替相場の安定を確保するために、資本移動の自由を制限してきた経済である。いずれにせよ、人民元は安い方が好都合だったわけだ。
一方、中国は人民元の国際化も志向してきた。国際間の貿易決済や金融決済で人民元を使う機会を増やすことを通じ、ドル依存を減らしていこうとしたわけである。しかし、ここでネックとなったのが資本移動の自由だった。経常取引は既に自由化されて久しい中国だが、資本取引の自由化を抜本的に進めなければ人民元の国際化は実現しない。
そもそも国際金融のトリレンマ自体が極端な考え方であり、現実のマクロ経済運営では各国の経済の課題を踏まえて、バランスが取られている。とはいえ、供給超過の経済である中国にとって、人民元安は大きな武器だったことは確かだ。それを放棄しても米国債離れであり米ドル離れを進めている点からは、中国の一種の覚悟が窺い知れる。
とはいえ、人民元の対ユーロ相場を確認すると、中国が対米ドル以外では安い人民元路線を捨てていないことが分かる(図表3)。中国にとってEUは、米国に代わる輸出として期待が集まる経済だ。EUは中国製の電気自動車(EV)に対して追加関税を課しているが、それ以外のモノに対して関税を高めることには慎重な姿勢である。
言い換えると、中国にとってEUは“うま味がある”経済だ。ゆえに、中国は対ユーロでの安い人民元路線を修正しようとは考えていないのだろう。中国は安全保障上の理由から外貨準備の通貨別構成を明らかにしていないが、財政部が米国債を手放した代わりに、ドイツを中心とするユーロ圏各国の国債を買い増した可能性が意識される。


