「激痛」を否定する医学的根拠

ただ「指が曲がった」という情報から、腱断裂や脱臼といった緊急にレントゲンを撮るべき重症でないもので、ひとつ考えられるものとして「弾発指」(ばね指)というものがあります。

一応、これも考慮にいれておきましょう。

これは腱鞘炎の進んだ状態で、指を曲げる腱が腱鞘という腱の通るトンネルにひっかかってスムーズに指を伸ばせなくなってしまう、というものです。これなら「外傷」ではなく、指を使いすぎたことで曲がってしまったということはあり得ます。

しかし、1月29日の兵庫そして1月30日の福岡での街宣映像では、高市首相の右手指は加齢や関節リウマチによる変形を示唆する所見は見えるものの、腫脹や異常な変位や屈曲はなく、街宣カーの手すりを叩きつつ熱弁する様子、さらにスムーズに曲げ伸ばしできている様子がしっかりと映っています。

1月30日、福岡で街宣する高市早苗首相。動画内12分台、右手指を曲げ伸ばしている様子が確認できる。

「そのときは一時的に治っていた(あるいは薬が効いていた)」のかもしれませんが、もし2月1日の朝に関節リウマチ特有の「朝のこわばり」とともに弾発指が再燃、悪化したのであれば、呼ばれた医務官は、その後の遊説スケジュールも勘案して、塗り薬やテーピングなどですますことなく、曲がって痛みの強い指にたいしてステロイドの腱鞘内注射をおこなったことでしょう。

さらに医務官に求められるのは、この場合に最低限の処置として重要な「保温」にかんする説明です。関節リウマチの患者さんに寒冷刺激は大敵。寒空の下で、手袋をしないで素手で街頭演説をさせるなど、論外です。「聴衆にテーピングなど見せなくていいので、必ず保温してください」と医務官は高市首相に念をおさなかったのでしょうか。

「痛みを口実に出演を休む」ほど深刻な状態でありながら、その一方で「病態を悪化させる寒冷刺激(素手)」「患部に負荷をかける動作(手振り)」を自発的におこなっている。このケアの欠如こそが、その「激痛」の信憑性を医学的に否定する有力な証左と言えるのではないでしょうか。

擁護派の医者がつかうレトリック

紙幅の都合で、詳細をすべてこちらにお示しできませんでしたが、これまで述べてきたように一連の経緯は医師の目から見て不可解な点があまりにも多すぎます。

それを指摘する医師が現時点できわめて少ない。それどころか、SNSで医師を名乗るアカウントの少なくない人たちが、高市首相が討論を欠席したことに対する批判にたいして「(疾患を持つ人を)社会から排除」している、「あまりにも『つらさ』を理解できていない」、などと感情的に非難していました。

医師でなくとも当然のことではありますが、こと医師はその職業倫理として「疾患による差別」については、徹底的に拒絶します。もちろん私も同じです。

一見まともな発言に思えますが、彼らの言葉は、いわゆる「藁人形論法」と呼ばれる議論のすり替えです。

「討論欠席という政治的判断への批判」を「特定の疾患への揶揄」にすり替え、変換することで、政権批判側の口を封じるためのツールとして、自分たちの医学的知識を都合よく振りかざしているとも言えるでしょう。