医務官の対応への疑念

ただ首相ご本人の、握手で引っ張られたことが原因というこの時点での認識が間違いだった可能性も否定できません。

支援者ともみくちゃになっていたのですから、ハイタッチやグータッチもしたでしょう。1回の衝撃のみで受傷したと考えるほうが不自然でしょう。

となると、今度はその後の医務官の対応に大きな疑念が出てきてしまうのです。

もともと脆弱な関節に強い外力がくわわることで一番心配なのは、腱や靭帯損傷による関節の変位や脱臼、さらには骨折です。

私が医務官として首相から「関節が腫れて痛い」と呼ばれたら、もし関節が曲がっていなくても、塗り薬やテーピングなどですませず、最低限レントゲンくらいは撮るでしょう。

関節リウマチを示す両手のレントゲン写真
写真=iStock.com/WILLSIE
※写真はイメージです

テレビ出演を断念したのであれば時間はありますし、選挙戦もはじまったばかり。地方遠征より診断治療を最優先にすべきと医師として強く進言するはずです。

しかし首相のポストを見るかぎりその形跡はどこにもありません。

その後に出てきた「情報」は、私の理解をよりいっそう困難にするものでした。

「関節が曲がった」事実ならばかなり深刻だが…

2月4日に会見した木原官房長官によれば「首相は衆院解散後の1月23日に党本部で行われた衆院選立候補予定者への公認証交付で300人以上と握手し、手指の関節が腫れるなど症状が悪化した。衆院選公示後の応援演説で支持者らと握手を重ねる中、右手の指2本の関節が曲がるなどした」とされたからです。

また時系列にも示したとおり、ジャーナリストの須田慎一郎氏の証言によれば、高市首相は「公示日から握手で右手指関節が2本曲がり腫れあがっていたところ、木曜日と金曜日の演説会で手を強く引っ張られアウトでした」とメールで伝えてきたとのことです。

つまり「木曜日と金曜日」に手を引っ張られる前、すなわち1月29日以前にすでに関節は曲がっていたということになります。

握手等の外力によって「関節が曲がった」となると、これはかなり深刻な事態です。

通常の医師であれば、関節リウマチという基礎疾患のある患者さんが、なんらかの外力で「関節が曲がってしまった」と聞けば、脱臼や最悪の場合骨折もあり得るため、これらを否定するためにも、それこそテーピングする前に、まずはレントゲンを撮ります。

しかしそれはおこなわれなかった。

メールで首相は「選挙後に病院でレントゲンを撮ります」と須田氏に送っていますが、そんな悠長なことを言っていられない事態です。

つまり医務官が診察した2月1日時点で、「指は曲がっていなかった」あるいは「指は曲がっていたが医師が見落としたか放置した」のいずれかしか考えられません。