金が上がったのではなく、ドルが下がった

かつての金相場の展開を振り返ると、第1次、第2次世界大戦など世界情勢が急速に不安定化した局面で、価格上昇は鮮明化した。一部では、今、それに似た状況が出現しているとの指摘もある。

むしろ、金の価値は一定と考えた方が分かりやすい。金は物質として極めて安定している。酸化して錆びることはない。それだけ価値も安定している。だからこそ、人々が金に引きつけられる。紀元前1300年代に使われた、ツタンカーメンのマスクが今なお金色こんじきに輝いていることからわかる。

昔、主要な国の通貨発行量は、その国の金の保有量に紐づいた。価値が一定の金の保有量に従い、通貨を発行する。そうすることで、お金の価値を一定にしようとした。金価格の上昇は、金そのものの価値(わたしたちの生活に与える便益)が上昇しているわけではない。取引に使う主な通貨である米ドルの価値が下落したから、その逆に金価格が上がっている。

ドルの信認が低下して、世界の中央銀行や主要な投資家は、ドルの価値下落を一段と懸念するようになった。

それを如実に示したのは、今年1月のダボス会議におけるカナダのカーニー首相の講演だった。カーニー氏は、「古い秩序は戻ってこない」と指摘した。米国が世界の政治、経済、安全保障の中心を担う時代は終わった。そう同氏は伝えたかっただろう。

ドルの価値を傷つけ続けるトランプ大統領

第2次世界大戦後、米国はその経済や軍事力を背景に、日独の戦後復興を支えた。1990年代以降は、グローバル化の加速を主導した。米国は、多国間の自由貿易や経済連携を推進した。国際的な競争ルールも整備した。いずれも、ドルの信認があったからこそなせる業だった。

2期目のトランプ大統領は、こうした価値観をあまり理解していないようだ。力で西半球を思いのままにして、エネルギー、レアアースなどの鉱物資源を自由にしたいのだろう。特に、欧州諸国への批判は強烈だ。それは、世界の基軸通貨としてのドルの価値を棄損する。

リーマンショック以降、米国は世界的な金融危機を防げなかった。その結果、ドルの信認は低下しはじめた。足元、トランプ大統領は、法に基づいた世界秩序を瓦解させた。FRBに金融緩和を行うよう圧力もかけた。同氏の予測不能な政策で、米ドルの信認低下は加速した。