ディーゼル車で失敗し、EVでも負ける

ドイツの戦略失敗を最も象徴しているのが、自動車産業である。

ドイツ勢は、日本車と激しくしのぎを削っていたが、EUが重視するハイブリッド車などの環境車の開発競争ではトヨタ自動車に後れをとっていた。

そこで選ばれたのが、燃費性能を売りにしたディーゼル車である。ドイツはEUを巻き込んで、ディーゼル車を1つの柱にすることでトヨタに対抗しようとした。

だが、環境車としての実力はいかんともしがたく、結局、排ガス不正問題によって破綻することになった。不正発覚によりドイツ車への信頼は一気に失墜し、EUのディーゼル車拡大路線は一気に行き詰った。

次にトヨタ打倒のために選んだ自動車政策がEVシフトだった。

だが、EV分野では、すでに中国メーカーはドイツの技術を吸収して独自開発にまでこぎつける急発展を遂げており、電池、部材、コスト、供給速度のすべてで先行していた。

中国BYDは四半期ベースではテスラを上回る場面も見られ、欧州市場でも存在感を急速に高め、EU側も対抗策を打たざるを得なくなっている。

2024年にはEUが対中EV関税引き上げを決定したが、欧州消費者の“低価格EV需要”を完全に抑え込むことはできず、ドイツ車の競争力低下は構造問題となっている。

ドイツ・モーゼルにあるフォルクスワーゲン(VW)の工場
写真=iStock.com/aquatarkus
※写真はイメージです

「最悪のシナリオ」に備えた安倍政権

こうした日独の中国に対する戦略の違いは、企業判断だけで生じたものではない。その環境づくりを担う日独政権の差でもあった。

とくに長期政権となった安倍政権とメルケル政権が採った国家戦略には、根本的な違いがある。

安倍政権は、中国との良好な経済関係を維持しつつも、対中関係の変質や供給網分断を「起こり得る現実」として外交政策の設計に組み込み、製造業の国内回帰と製造拠点の分散化を進めていった。

経済と安全保障を切り分けない「経済安全保障」に重心を置き、中国リスクを日本経済のダメージにならないレベルで管理する姿勢を貫いた。

それに対して、メルケル政権は経済合理性を最優先し、中国を「変化させ得るパートナー」「最大の成長市場」と見続けた。その結果、依存が深まり、修正が遅れた。

両者の最大の違いは、「最悪のシナリオを想定していたかどうか」だ。安倍政権は最悪のシナリオに備え、メルケル政権は備えなかった。