引退を“キャリアの再設計”ととらえる

私の父は昔、こんなことを言っていました。「7年ごとに方向を変えないと飽きてしまうよ。そうしないと、自分の持っているものを世界に与えられなくなる」

私はその“7年ルール”を厳密に守ってきたわけではありませんが、仕事の方向性を何度か大きく変えたことで、思いもよらなかったような創造性を発揮し、周囲と分かち合えるチャンスに恵まれました。

引退によって価値ある知識や経験が失われること、人間が本来、意味のある人生を生きたいという願いを持っていることを考えると、もっと早いうちから仕事を意味あるものにしていく必要があるのではないでしょうか。いくつになっても仕事が刺激的で、かつ柔軟に対応できるものなら、もう辞めたいとは思わないかもしれません。

働くことの文化そのものを見直して、年齢を重ねた人たちのニーズや希望に合わせることはできないでしょうか。

引退を“キャリアの再設計”ととらえるのはどうでしょう?

年齢を重ねた人が、自立を保ち、何かを究め、目的意識を持てるようなキャリアを再設計するための方法をもっと研究する必要があります。もちろん、加齢にともなう身体的・認知的な変化にも配慮しなくてはなりません。でもそうした調整は、実際にはそれほど難しくない場合も多いのです。

可能な形で社会に貢献し続ける大切さ

年齢を重ねる利点を挙げてみましょう。まず、年配の働き手には、経験に裏打ちされた知恵があります。言語能力も磨かれていますし、金銭的な報酬へのこだわりもあまり強くありません。家族や地域社会、恵まれない人の役に立ちたいという気持ちが強く、ほかにもたくさんの美点があります。一緒に働きたいと誰もが思うのではないでしょうか。

一方で、加齢にともなう変化に関しては現実的に考えなくてはなりません。たとえば体力の低下に合わせて勤務時間を短くしたり、処理速度の低下に合わせて作業時間を長めに設定したり、関節痛や視力の低下に対応するよう職場環境を整えたりすることが挙げられます。

企業側は、そんな余裕はないと思うかもしれません。でも実際の調査では、年配の従業員に対するのと同じ配慮を若い従業員にも行ったところ、会社全体の生産性が向上したという結果が出ているのです。

さらに興味深いのは、ブルーゾーン(百寿者が多く住む世界の五つの地域)では、そもそも引退という概念が存在しないことです。人々は90歳を過ぎても漁をしたり、畑を耕したり、子どもや孫の世話をしたりしています。社会に意義あるかたちで貢献しているのです。

温泉
写真=iStock.com/Gyro
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