引退すると心と体のあらゆる能力が下がり始める

さて、最初の問いに戻りましょう。引退は心身の健やかさや幸福感を損なうのでしょうか?

実はその答えは一概には言えず、人によって異なります。

もし仕事上のストレスが多く、一日中座りっぱなしの生活であれば、飲酒量が増えたり肥満になったりなどの問題が生じるかもしれません。その場合、仕事を辞めると健康状態が良くなる可能性があります。活動量が増えたり、食生活が改善されたり、アルコール摂取量が減ったりすることで、寿命が7年以上延びることもあるそうです。ただし、それには引退後も意義ある活動に取り組み、刺激を受けながら、活発に過ごすことが条件です。

一方で、あまり良くない結果を示す研究も見られます。

イギリスで実施されたある調査によると、引退後、言語記憶の低下速度が40パーセント近くも増すことがわかりました。しかも、退職前に知的な仕事をしていたかどうかは、認知機能の低下速度を左右する要因にはならなかったそうです。

また、別の調査によると、完全に引退して6年が経過した人々は移動能力や日常生活の動作(入浴や着替えなど)能力が5〜16パーセント低下していました。慢性疾患は5パーセント、メンタルヘルスの問題は6〜9パーセント増加したという報告もあります。

これらは身体活動の減少や、社会的なつながりの喪失が原因であると考えられています。ただし、配偶者がいて社会的なサポートがある人、退職後も身体を動かしている人、あるいはパートタイムで働き続けている人などは、こうした悪影響が軽減される傾向にあります。

社会に貢献し続けることで健やかに老いる

さらに気になるデータもあります。完全に引退した人は、そうでない人に比べて、心臓発作や脳卒中を起こす確率が約40パーセント高いという研究結果が出ているのです。こうしたリスクは退職直後の1年間が最も高く、その後は徐々に落ち着いていくようです。

こうした理由から、退職は“人生で最もストレスの多いできごと43”のうち、上位にランクインしています。

マーシー・コットレル・ハウル、エリザベス・エクストロム『The Gift of Aging じょうずに老いる』(KADOKAWA)
マーシー・コットレル・ハウル、エリザベス・エクストロム『The Gift of Aging じょうずに老いる』(KADOKAWA)

もうひとつ、経済的な側面も考えなくてはなりません。アメリカでは40代の約20パーセントが、老後資金をまったく貯めていないそうです。アメリカ人の半数が、退職後にいまの生活水準を維持できないとされています。

一方で、ほかの国の人々はもっと計画的に老後に備えているようです。たとえばイギリスでは収入の約20パーセントを、そして中国では半分近くを老後のために貯蓄している人もいるそうです。もし健康上の理由であれ別の理由であれ、引退を望むのであれば、若いうちから準備を始める必要があります。

新しい人間関係を築くこと、遊びを生活の一部にすること、そして何かを学び、社会に貢献する方法を見つけること――これらは健やかに老いるために欠かせない要素です。ボブ・ムーアが言うように、こうしたことをいまの仕事の中に取り入れ、できるだけ長く続けていくことが、いつまでも健康で、より良い未来を生きるための大きな力になります。

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