「全部100円でええ!」から始まった
矢野氏が29歳の時に広島で始めた雑貨移動販売が原点となる「ダイソー」もまた、とても恵まれたとはいえない環境からのスタートだった。
ある日のこと、露店を開く予定で前日にチラシを配っていましたが、天気予報で終日雨ということもあり、当日は休むつもりでした。ところが午前10時には空が晴れ上がり、お昼頃空き地に着くと、チラシを持つ大勢のお客さんが当店を待ちわびていたのです。
急いで商品を降ろすや否や、お客さんが勝手に箱を開けては「これいくら?」と迫ってくる。当時は300種類を超える商品を揃え、値段もまちまち。普段は伝票を見ながら値札をつけていましたが、確認する暇もありません。
必要に迫られた末、「ああもう、全部100円でええ!」と口にしていました。このひと言をきっかけに飛ぶように売れたことが、100円均一の始まりです。100円ショップは、偶然の産物なのです。
お客様の“目つき”が変わった瞬間
こうして矢野氏は「100円均一」という道を見出したものの、すぐに生活が楽になったわけではない。「いつまでこんな商売を続けるのだろう」と不安に苛まれ、子供たちには「中学を出たら就職してほしい」と頼み込む有り様だったという。
極めつけは100円均一を始めて概ね4年が経過した頃、お客さんから「この前、買うたらすぐ壊れた。安物買いの銭失いや」と大声で罵られたのです。「安物買いの銭失い」というのは、商売人にとってきつい言葉です。情けなくて仕方がありませんでした。
それでも、その痛烈な言葉をきっかけに、私の商業観を一から見直すことができました。儲からなくてもいい、たとえ100円でもいいものを売りたい。その一心で商売に向き合うようになりました。
当時は原価が70円以下の品物しか仕入れていなかったため、安物と言われないように利益を度外視して原価を引き上げ98円や99円の商品も取り扱うようにしたのです。そうすると、「えっ、これ100円でええの?」とお客さんの目つきが変わり、飛ぶ鳥を落とす勢いで売れ出しました。
自分の利益など顧みず、お客さんの立場に立った商売を貫く。本当の意味での顧客第一主義に徹することで、後々よい結果が巡ってくることを教えてもらいました。
