甲斐の虎のラブレター
「俺の、君への思いを次のように誓う!
一、君というものがありながら、君の同僚の弥七郎を口説いたことは事実です。しかしそのたびに弥七郎から「今、お腹が痛いので……」と拒否され、結局、思いを遂げることはできなかったんだ。口説いたことは認めているのだから、このことにウソはないよ。
一、弥七郎を夜伽に召し出し、俺の床に寝かせたことは一度もありません。弥七郎は家来のひとりだから、あるいは昼間に仕事の態を装って召し出し、行為に及んだこともあるのでは? と君は勘ぐるかもしれないけれど、そんなことをしたこともない! 特に、君が来てくれなくて、独りさびしい今夜なんか、人恋しくてたまらないけれど、こんなにさびしい時でさえ、もう俺には、弥七郎を口説こうなどという気持ちはさらさらないんだよ。
一、俺の思いは、ただ君と親しく枕を交わしたいというだけなんだ! だけどそのために俺が何かフォローすると、君はそれを疑って、浮気の証拠隠しのように悪く取ってしまうから、俺はとても困惑している。
もし、ここに書いたことにウソいつわりがあったら、俺はどんな罰を受けてもいい。俺たちの地元である甲斐の国のあらゆる神様に誓うよ! 一の宮だろ、二の宮だろ、三の宮の大明神だろ、富士に白山、それに、俺たちは武士だから、武人の守り神でもある八幡大菩薩と、上諏訪・下諏訪の大明神にも誓おうね。だから、機嫌をなおしておくれよ。
PS
普通「起請文」は、サ、神社の印を押した特別な誓紙に書くものだよね? でもこの手紙は普通の紙にしたためている。このことを君は、不実だと疑うかもしれない。だけど、誓紙に書かなかったからといって、俺はいい加減な約束をしているわけじゃないんだ。
俺にも立場があるだろ?
起請文を書くということは、武将が命をかけることだ。誓紙をとりよせ、俺がそこに何かしたためたりしたら、瞬く間に館中に噂が広がって、重臣たちが「何を書いているのですか?」なんて、ツマラナイ気をまわす。
トップである俺が、重臣たちを差し置いて、君にこんなに真剣な手紙を書いているなんて知れたら、ヒガんだ上役が、君をいじめるかもしれない。だから、普通の紙に書いたのサ。
明日、人目を盗んで、あらためて誓紙に書くからね。
七月五日 晴信
春日源助どの」

