八雲の伝記に記された“ビスランドへの悪意”
「The Lady of a Myriad Souls」とは、直訳すれば「無数の魂を持つ婦人」となる。一雄が批判しているケンナード女史とは八雲の伝記を書いたニナ・ケンナードのこと。『Lafcadio Hearn』(Kennard, Nina H. 1912. Lafcadio Hearn. New York: D. Appleton and Company. Internet Archive)では「The Lady of a Myriad Souls」のタイトルでビスランドを取り上げている。
ジャーナリスト兼小説家のエリザベス・ビスランド〔写真=エリザベス・ビズランド『In Seven Stages:A Flying Trip Around the World』(ハーパー・アンド・ブラザーズ)/PD US/Wikimedia Commons〕
全体としてはビスランドの八雲への献身を記述しているが、ところどころでビスランドへの悪意が顔を出す。たとえば、ビスランドがハーンの天才を信じたことを「少女の洗練されていない熱意」(“a girl's unsophisticated enthusiasm”)と表現し、知的パートナーというよりも世間知らずな崇拝者として描いている。
そもそも章のタイトルに「The Lady of a Myriad Souls」を選んだこと自体が、ケンナードの悪意を物語っている。この表現は、表面的には「多才で多面的な女性」を意味するが、裏を返せば「一貫性がない」「移り気な」「誰にでも良い顔をする」という否定的な含意も持つ。ハーンがビスランドに贈った称号を、皮肉を込めて章タイトルに据えることで、ケンナードは巧妙にビスランドの人格を貶めているのだ。
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