けっきょくは顧客が積み重なっていかなかった
借り入れはどんどん増えていった。誰からも驚かれると思うが、利益が1億そこそこしかないにもかかわらず、数十億円を借りていたのだ。しかも無担保だ。もっとも、オフィスも自社ビルではないし、担保となるようなものは何ひとつもっていなかった。
いまとなってみれば、なぜ銀行がそんなに多額の資金を貸してくれたのかわからない。おそらく、私たちの未来に投資をしてくれたのだろう。私は銀行に対しても常に、人とブランドで企業は必ず伸びる、だから自分たちはそこに投資をするのだと話していた。
06年の段階で、採用のマーケットに限界があることには気づいていた。とくに新卒のマーケットでは、競合他社も増え、かなりの値段のたたき合いになっていた。採用事業だけで売り上げは30億くらいあったが、これが限界というのが実感だった。
それまで私たちが新卒採用のスタートを手掛けた中小企業は2000社くらいになっていたが、けっきょくは顧客が積み重なっていかなかった。
せっかく啓蒙して育てても、3年くらいするとやり方を覚えて、自分たちでも採用ができるようになる。そうすると私たちより安い競合他社に乗り換えるか、本体である毎日コミュニケーションズへいってしまう取引先もあった。私たちにコンサルティング・フィーを払わずに済むからだ。
採用支援の市場では、リクルートの商品の価格が圧倒的に高かったが、私たちのコンサルティング・フィーはさらにその2倍していた。それでも、私たちの場合、媒体を使って顧客をサポートするソフトを売っているのだから、高いのは仕方がないという感覚だった。
たしかに、リーマン・ショックの影響は大きかった。だが、それよりも前の段階で構造的に、もう私たちの事業は駄目になっていたのだ。新卒採用にプラスして、大急ぎで新しい商材をつくる必要があった。