食品価格の先行きも不透明である。例えば延期中の森林伐採規制(通称EUDR、業者に対してモノの生産に際して森林破壊を伴っていないかどうかを証明する義務を負わせる規制)が本格的に施行されれば、カカオやコーヒーといった輸入食材の価格は一段と上昇する。先行きの不透明感が強いと判断する経営者なら、値下げに踏み込めない。
減税でインフレ退治は難しい
インフレとは、それがデマンドプルだろうとコストプッシュだろうと、要するに需給が崩れて超過需要、ないしは過少供給になったことで生じる現象である。したがって、需要を抑制するか、供給を刺激するか、あるいはその両方をバランスよく進める以外に、インフレを穏やかにさせる方法はない。少なくとも、需要の刺激はご法度である。
それに、ドイツのレストランサービスの価格の急上昇は、ロシア発の外生的な負の供給ショックならびに、最低賃金の引き上げという内生的な負の供給ショックに起因する現象である。本来なら、VATの引き下げは需要の刺激につながるため、あまり意味がないどころか、これで価格が引き下がった場合、かえってインフレを刺激しかねない。
となると、供給をどう刺激するかということになる。食料品の増産など天候次第のところもあるため、そう容易ではない。となると、短期的には輸入を増やして総供給を増やす以外に、方法はない。幸い、ユーロ相場は歴史的な高水準にあるため、実はドイツはかなり有利な条件で、欧州連合(EU)以外から食料品を輸入できる環境にある。
本来ならば、ドイツは最低賃金の引き上げを抑制すべきだったのに、それを政治が許さなかった。その結果、レストランサービスの価格はさらに上がるという悪循環にドイツは陥っている。これを減税で打ち消そうとしても、効果はなかなか望めない。やらないよりはやった方がマシかもしれないが、あくまで痛み止めであり、根治はしない。
こうしたドイツの苦境を整理すると、日本にもつながるところが見えてくる。結局、問題はインフレである。それを和らげるなら、需要ではなく供給を刺激することが優先される。それは規制の緩和に加えて、円高誘導を通じた輸入の増加にほかならない。消費減税をすればいい、軽減税率を強化すればいいという単純な話ではないのである。
(寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です)


