レストランサービス価格の高騰が続いている
そもそも、ドイツでなぜ飲食店が苦境に直面したかというと、その主因は歴史的な食品価格の高騰があったと考えられる(図表2)。ドイツの消費者物価は、コロナショック後の2021年に入ってから上昇が徐々に加速したが、その頃はまだレストランサービスの価格や食品価格の上昇も、消費者物価全体のトレンドとほぼ連動していた。
この傾向は、2022年2月、つまりロシアがウクライナに侵攻したことで大きく変化する。つまり、食品価格の急騰が始まる。ウクライナやロシアから飼料に使う穀物の供給が急減したこと、ヒマワリ油やナタネ油といった食用油の供給が急減したこと、作物の栽培に用いる肥料の価格が急騰したことなどが、食品価格の高騰につながった。
一方で、レストランサービスの価格が急上昇するのは2023年以降のことである。オラフ・ショルツ前首相が率いた当時の左派連立政権は、主にインフレ対応という理由で最低賃金を積極的に引き上げるなど、国民の所得の引き上げに躍起となっていた。その結果、レストランの従業員の給与が急増し、サービス価格の急騰につながった。
確かに、この間のドイツのレストランサービス価格の急騰は目を見張るものがある。私的なメモによると、2023年にフランクフルトで立ち寄ったあるレストランで、小さい豚のシュニッツェル(カツレツ)を食べ、リンゴ酒を二杯飲み、勘定は20ユーロだったようだ。コロナ前だと15ユーロもしなかったのではなかったのではないか。
現在、その店のウェブサイトで確認すると、同じ内容で26ユーロも取られるようだ。もちろんVATが2024年より7%から19%に戻った影響もあるわけだが、その後もレストランサービスの価格は、消費者物価全体や食品価格のトレンドに比べると、ハイピッチで上昇が続いている。これではレストランの利用が手控えられても当然だろう。
本当に価格は下がるかは不透明
さて、問題は、VATの減税で本当にレストランの価格が下がり、利用者が増えるかどうかである。冒頭で述べた通り、VATが19%から7%と12%ポイントも下がるのだから、シンプルに考えれば1割はレストランの価格は下がり、利用者が増えると期待される。一方、この減税分を価格に反映するか否かは、レストラン側の裁量に委ねられる。
もちろん、素直に価格をVATの引き下げ分そのままに割り引く経営判断があるだろう。他方で、VATの引き下げ分よりは価格を割り引かない判断もあれば、価格を据え置く判断もあるはずだ。今後の人件費増や物価高に対するバッファを設けるという観点に立つなら、むしろ価格を割り引かないことの方が合理的な判断と言えるかもしれない。
ドイツでは今後2年間、最低賃金が引き上げられ続ける。具体的には、現行の時給12.82ユーロから、年明け2026年1月には同13.9ユーロ、2027年1月には同14.6ユーロと引き上げられる。本来、ショルツ現政権の下では最低賃金の引き上げの抑制が期待されていたが、抑制どころか結局は引き上げを継続する事態となってしまった。


