8ミリでもダメ、6ミリでもダメ

「出し口の口径が小さい方が、狙ったところにジャムを塗ることができて、かつ少ない力で押すことが可能です。ただ、果肉量が少なくなってしまうデメリットもあるんです。それらの塩梅をどうするか、あるいは中身のジャムのカットサイズをどう設定するか――そうした検証を繰り返し行いました。

それこそはじめは、瓶ジャムからスプーンで取り出すのと同じ程度の果肉がチューブから出るかどうかを試して、やっぱり出ない――というレベルからのスタートでした。

そして、仮にいちごだとすれば、カットサイズを8ミリ、6ミリ、4ミリと偶数でこれまで刻まれていたものを、本商品の開発のためにその間を刻んで7ミリの刃を開発して試す――という作業を何度も根気よく行うんです。

それらはたった数ミリの微妙な差なのですが、お客様の口に入ったときに印象ががらっと異なります。妥協をしてしまえば、本当にいいものは作れないので、必ずチューブから出るジャムでも瓶ジャムと同じ程度の満足感を得られるようなものを誕生させたいと考えていました。

結局、口径は、10以上の大きさを試したと思います。また、果肉の大きさや物性についても、やはり10程度は検討したと記憶しています。特に果肉が口径に比して大きすぎると、詰まりの原因になってしまい、お客様にとってストレスになってしまいます。それだけは避けたいと考えていました。また弊社にはさまざまなフレーバーがありますから、それぞれで果肉処理を微調整しました」

取材時の松本翔吾さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
取材時のようす

社内の猛者たち「確かにジャムの味がしている」

同社が大切にしているジャム作りの考え方がある。それは、「フルーツの素材そのものの美味しさを使うこと」。松本さんも、その徹底したこだわりに自信を見せる。

「もちろん、ジャム作りにおいて企業として創意工夫はしています。一方で、ジャムは農産加工品ですから、原料のよしあしが絶対的に商品のクオリティにかかわってくる側面があります。弊社では、さまざまな産地からフルーツ原料を調達しており、素材の美味しさと調達力には絶対の自信を持っています。従来の商品と同じく、果肉を最大限までお客様に楽しんでいただけるものを新商品として提供したいと考えていました」

さまざまなフレーバーはあれど、同社で不動の売れ筋ジャム3つはここ数年揺るがない。いちご、ブルーベリー、オレンジ(マーマレード)だ。新商品の開発にあたっては、いちごから着手した。その試作品の数はざっと20ほど。社内には古今東西のジャムを食べてきた、業界の猛者が揃っている。彼らをして、「瓶のなかに入っていないけど、確かにジャムの味がしている」と言わしめた。及第点の反応に、松本さんたちの胸が高鳴る。新商品発売にまた一歩近づいたからだ。

「チューブに替えただけ」ではない、アヲハタの「Spoon Free」
撮影=プレジデントオンライン編集部
左奥)瓶のジャム 右)Spoon Free