経営陣に求められた「果肉感」

何度も現場の社員で試作品の検討を重ね、確度の高いものができあがった。最終的な決裁が下りるためには、会社の上層部を納得させる必要がある。その試食会で言われた、こんな一言が耳に残っている。「もうちょっと果肉感を出せないの?」。

そのとき、松本さんは気付いた。「比較対象は自社の瓶ジャムであって、日頃瓶ジャムを食べているお客様を納得させるクオリティが求められているんだと思いました」。ただ“美味しいジャム”として成立しているだけでなく、瓶ジャムを食べてきたファンも唸るような驚きがあってほしい――そんな会社のこだわりと期待を理解した。

決裁権を持ち、あまたのジャムを食べ比べてきた経営陣を納得させるインパクトを持つ商品に仕上げるにはどうしたらいいか――開発の現場は頭を悩ませた。

経営陣が求めてきたのは、何よりも果肉感。自社の競合相手は他ならぬ自社の瓶ジャムだった。試行錯誤を重ねた口径には自信があった。だが経営陣から要求される「より果肉感のあるジャムを」の声はそんな開発チームに立ちはだかった。経営陣を納得させるためのプレゼンではないものの、経営陣の先にいる消費者たちを納得させなければ新商品として成り立たないことは誰もが理解していた。

開発責任者の松本翔吾さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
開発責任者の松本翔吾さん

ギリギリまで「濃度」を高める

「できない理由を並べることは簡単でした。でも『口径がこうなっているんで、無理です』と言ってしまえば、それで話は終わってしまう。そうではなく、お客様にどう新しいジャムを楽しんでもらえるかを必死で考えました」

たどり着いた答えは、“濃さ”だった。

果肉の大きさは開発の段階から変えなくても、濃度を操ることで口に入れたときの存在感を残すことができる。結果、損益のギリギリまで濃度を高め、コスト内で可能なかぎり濃厚な新商品を誕生させることに成功した。

また、ジャムそのものへの徹底した味の追究とは別に、商品開発は随所にこだわりが散りばめられている。

前編でも紹介したボトルデザインは、その極地だろう。「デザイナーさんには、ラフから数えたら、本当に数え切れないくらいのアイデアを出していただきました」と松本さんは振り返る。

「何よりも大切なことは、新商品を目にしたお客様に『これがジャムだ』と認識していただけることです。これだけ瓶ジャムが浸透しているなかで、そのハードルは非常に高いと考えていました。そもそもジャムとして認識されなければ、売り場で出会っていても手に取られることもありません。パッケージの見やすいところに果物を堂々と描いてもらい、ジャムであることがすぐにわかるデザインをひたすら議論し続けました」