思い出のデート服や家族の愛用品まで
従業員がおしゃれなことだけでなく、わたしが気づいたのは洋服や雑貨を売りに来る人たちが長い時間をかけて従業員と会話をしていることだ。いったい、何を話しているのだろうと不思議に思い、ベティさんに尋ねてみたら、「お客さまは売りに来る品物についての思い出を話すのです」と言った。
ある老婦人はこう言った。
「この服は結婚する前、夫と初めてデートする時に着ていたんです。形は古いけれど、思い出がある服だから恋人とデートする若い人に着てもらえたら幸せです」
また、ある主婦はこう言った。
「このオーバーは私の父親が愛用していた服です。大切に着ていたから傷んでいません。大切にしてくれる人に買ってもらいたいです」
従業員はそういった客の話を聞いて、ちゃんと覚えている。セカンドストリートでモノを買う人たちは物品そのものだけでなく、物品にまつわる物語も一緒に買っている。そして、愛用しているうちにまた物語が増えていく。人から人へ品物をつないでいくのがセカンドストリートで働く人たちだ。
社長が単身、ユニクロや無印良品を見に行く
そんな彼らと話していて、わたしは大きなことに気づいた。セカンドストリートにある商品はいずれも誰かが一度は買ったものだ。一度は誰かが「価値がある」と判断したものだ。そうした商品は「一度も売れなかった新品」よりも価値がある。そう信じて買いに来る人たちがいる。そういう客と従業員は意気投合して話をしている。商品は「新品だけが価値」なのではない。
「ある人が長く深く愛した品物には新品よりも大きな価値がある」。わたしはセカンドストリートでそのことに気づいた。
「私たちの仕事は売る前に買うことです」
わたしが台湾にいた時、セカンドストリートを傘下に持つゲオホールディングスのトップ、遠藤結蔵が来ていた。会社のトップが海外拠点に来る場合、たいていは会議と打ち合わせと対外交渉だ。そして、現地従業員との交流だろう。
遠藤が他の企業経営者の海外出張と違っていたのは、まず秘書を連れないことだ。彼はひとりでどこでも行く。秘書に頼らない。そして、飛行機は深夜便を好む。ホテル代と時間の節約になるからだ。決してホテルに前泊はしない。早朝に着くと、すぐに仕事にとりかかる。さらに、国内でも海外でも、ひたすら店舗を回る。
セカンドストリートの現地店舗だけではない。ライバルとされる現地のリユース店も見に行く。ハイブランドの店、ユニクロや無印良品の店舗も見に行く。遠藤は店舗回りをしながら何を見ているのかが気になって、わたしは彼の後をついて回った。すると、彼の視線の先には客がいた。商品や陳列ではなく、客を観察していた。


