クマとの共存には絶妙なバランスが求められる

現在、連日のように報道される日本特産のツキノワグマ(ヒグマは北海道のみに生息)だが、過去には絶滅が危惧され、約30年前にはどのようにツキノワグマ(クマ)と共存するのかが大きなテーマだった。

ところが最近、東北や北陸などで急速な個体数の増加に転じたことで、人間を襲うなどの被害が顕著となり、「危険な害獣として駆除しろ」と国を挙げてクマを撃ち殺すことに躍起になっている。

クマは九州では戦後絶滅し、四国などでは絶滅のおそれが高いとされる。

ただ単に「駆除しろ」では、ニホンオオカミ、オキナワコウモリ、ニホンカワウソ、トキなどと同様に日本からクマが姿を消してしまう可能性も出てくる。

人間がクマとの闘いに完全に勝ってはいけないのだ。

クマとの共存には絶妙なバランスが求められるが、そのバランスを見極めるのは非常に難しい。その大きな理由は、クマの生息の実態がわかっていないからだ。

海外からの批判でクマ狩猟を自粛した過去

30年以上前、ツキノワグマの減少が大きな問題となった。当時、環境庁(現環境省)は日本国内には約1万頭生息し、このうち、毎年約2000頭前後が狩猟対象や害獣として捕獲されていると推測していた。

それとほぼ同じ頃、ある米国の学者が国際学会誌に「日本ではクマの胆のうを取るため幼獣や雄、雌の区別なく年間を通じて殺している。この野放しの状態が続くと絶滅の危険性がある」と厳しく追及し、英国などでも同様の批判が起きた。

このため、1992年から94年までクマの狩猟が自粛された。この結果、2004年秋にはクマの大量出没の状況が報告され、クマの生息地内で事故が発生、人間の生活圏への出没が見られるようになった。

南アルプス周辺でも、一時期、生息数がかなり減ったが、現在は回復しているとされる。静岡県では現在でもクマの狩猟を自粛している。

自動撮影カメラによる南アルプス地域のツキノワグマ
静岡県提供
自動撮影カメラによる南アルプス地域のツキノワグマ

静岡県は2024年度に自動撮影カメラを南アルプス地域及び富士地域に20基設置して、個体数を推定するカメラトラップ調査を行った。この結果、富士地域に70頭から150頭、南アルプス地域に300頭から600頭が生息していると推定された。ただ、クマの生息数を正確に把握するのは非常に難しいという。この生息数でクマが現在でも絶滅の危機にあるのかどうかはわかっていない。