ロシア政府が今夏公開したプロパガンダ映画が、記録的な失敗に終わった。海外メディアは、製作費に少なくとも2億ルーブル(約3.9億円)を投じたが、回収できたのはせいぜい20万円と報じている。戦争を推進したいプーチン大統領とは裏腹に、プロパガンダの押し付けにうんざりしたロシア国民の実態が見えてくる――。
2025年11月19日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が「AI Journey 2025」の「AIとの未来」で演説を行うためモスクワのスベルバンク・シティ・ビジネスコンプレックスに到着した。近くにはスベルバンクCEOのヘルマン・グレフが同席している
写真=SPUTNIK/時事通信フォト
2025年11月19日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が「AI Journey 2025」の「AIとの未来」で演説を行うためモスクワのスベルバンク・シティ・ビジネスコンプレックスに到着した。近くにはスベルバンクCEOのヘルマン・グレフが同席している

ガラガラの映画館、観客はわずか平均3人

今年8月、ロシア政府が資金提供した映画『Tolerantnost(寛容)』がロシア全土で封切られた。ロシア文化省が「社会的に重要なプロジェクト」と位置づけた、国策映画ともいえる作品だ。

作品は架空のヨーロッパ国家「フラングリア」を舞台に、難民キャンプから町へとやって来た男たちが暴行の数々を巻き起こす。欧米的なリベラルな価値観の蔓延により、社会が崩壊してゆく様子を描写。西欧諸国のモラル低下を揶揄するストーリーだ。

ロシア人監督のアンドレイ・グラチョフ氏が2018年から構想を温めていた本作。2時間43分の大長編ながら、反応は「不評」の一言に尽きる。映画データベースIMDbの評価は星2.9と振るわず、星1(最低評価)が全体の7割近くを占める。

出所=IMDb『Tolerantnost』(2025)
出所=IMDb『Tolerantnost』(2025)

テレグラフ紙によると、作品はロシア国内で40以上の劇場で上映されたものの、初週末に劇場を訪れた観客は全国合わせてわずか192人だった。

1回の上映あたりの平均観客数は、わずか3人。タイムズ紙は、ほとんどの上映回でガラガラの状態だったと報じている。配給会社の担当者は同紙に対し、「人々はチケットを買おうとしなかった」と認めた。

映画は3週間上映されたが、独立系メディアのメデューザによると、最終的な興行収入は計約1315ドル(約20.6万円)という散々な結果に終わった。

不発続きのプロパガンダ映画

惨敗の『Tolerantnost』だが、決してめずらしい出来事ではない。

ロシアの独立系メディア「インサイダー」は、ロシア国民が総じてプロパガンダ作品に興味を示していないと指摘する。

ウクライナ侵攻を扱った2022年の戦争ドラマ『Blindazh(塹壕)』は、5億ルーブル(約9.8億円)の製作費を投じたのに対し、興行収入は1億700万ルーブル(約2.1億円)に終わった。

翌2023年の『Pozyvnoy “Passazhir”(コードネーム〈パッセンジャー〉)』は3億ルーブル(約5.8億円)近くを国家予算から拠出したが、興収はわずか750万ルーブル(約1470万円)と、製作費の40分の1しか回収できていない。