さらに定年延長・継続雇用には「厳しい現実が待ち受けている」と老後のお金に詳しい経営コンサルタントの岩崎日出俊氏。例えば大手銀行の定年退職者が系列のクレジット会社で雇われたものの、働く場所はその子会社の債権回収業者で、毎日返済遅延者に督促の電話をかけさせられるケースもあるという。あるいは60歳以上の社員がだだっ広い部屋に集められ、単純作業を延々とさせられるといった話も。「現役時代のように65歳まで楽しく働けるという話は聞いたことがありません」(岩崎氏)。
それでも定期収入が得られる人は幸せだ。「高齢者がハローワークに行っても求人がないというのが現実です。各市町村の『シルバー人材センター』に登録しても1日、2日単位の軽作業が中心なので賃金もわずか。とても生計を立てることはできません」(岩崎氏)。
では定年制度廃止はどうか。「企業の立場では理想的」と経済評論家の山崎元氏はいう。社員の立場でも定年がなくなれば体力が続く限り働けていいと解釈しがちだが、実は逆だ。定年を廃止すれば、会社の基準に合わない社員をいつでも辞めさせることができるので、人件費がコントロールできて人材の流動化も進む。
仮にそうなった場合、「第2の人生をどの辺からどうスタートするかということを、現役時代の早い段階から考えたほうがいい」と山崎氏はアドバイスする。
「例えば起業するつもりなら元気で無理の利くうちに環境を整えておく。老後は蕎麦屋をやりたいという夢があったとしても、63歳から蕎麦打ち教室に通って65歳で開店するというプランでは成功するわけがない」
それでも起業して大成功というケースは稀で多くの場合、会社員時代の2倍も3倍も働いてようやく人並みの収入になる。「それでも年金も含めて複数の収入の可能性を手にしていることは経済的にも安心だし、好きな仕事であれば働くことも苦にならないはずです」(山崎氏)。
岩崎日出俊
1953年生まれ。日本興業銀行、J.P. モルガンなどを経て現職。著書に『定年後 年金前』など。
経済評論家
山崎 元
1958年生まれ。12回の転職を経て現職。専門は資産運用。著書に『お金とつきあう7つの原則』など。