若い世代にも「老後心配性」は多い。しかし、実態がわからないものに不安になるのはナンセンスである。その正体を見据えながら今できることを考えてみよう。

若い頃は給料日前になると財布がさみしくなり、「うちの会社は給料が安い」と嘆く日々だったのではないだろうか。だが年功序列型賃金制度によって徐々に給料が増えて、気がつけば高給取りに……。不況が続く今は実感がわかないだろうが、確かに若手に比べれば給料は多い。「それは日本の雇用環境も一種の賦課方式だからです」と社会保障論が専門の学習院大学・鈴木亘教授。

「若手のときは、働きに見合わないくらい低い給料に甘んじなければならないが、中堅からベテランになると生産性が落ちてくるのに給料は高くなる。つまり若い世代が中高年を支えているわけです」。

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図9 夫婦ともに60歳で退職した場合

だが定年を迎えると立場は一気に逆転する。定年からの空白の期間に働くかどうかで、老後のキャッシュフローは大きく変わる(図9、10)。

では、60歳以上の雇用の現実はどうか。06年に施行された改正高齢者雇用安定法によって、企業には(1)60歳定年制度を引き上げる、(2)継続雇用制度を導入する、(3)定年制度を廃止する、の3つの選択肢が用意された。

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図10 夫婦ともに65歳まで働いた場合

定年延長・継続雇用では多くの場合、60歳時の地位や給料がそのまま延長されるわけではない。国家公務員の定年延長に向けて人事院がまとめた新人事制度の素案では、60歳超の給与は年収ベースで50代後半より約3割削減され、60歳になると管理職を外れる役職定年制も導入され無役となる。ただこれは公務員という恵まれた雇用条件のもとでの話であり、不況に耐えている民間の会社では厳しい状況が続いている。厚労省の11年「高年齢者の雇用状況」によれば、希望者全員が65歳以上まで働ける企業の割合は47.9%(70歳まで働ける企業の割合は17.6%)と半数に満たない。また継続雇用も万全とは言えず、過去1年間に定年を迎えた43万4831人のうち継続雇用された人は32万71人(73.6%)だった。また年収も公務員のように現役時代の3割削減など夢の話で5割から7割削減されることを覚悟しなければならない。