子供用と侮るなかれ。まだまだ進化中
小学校の運動会で、リレー選手の足元を熱心に撮り続ける男がいる。児童の保護者でもなければ、学校から頼まれた写真業者でもない。謎の男の正体は、小学生に圧倒的な人気を誇る「瞬足」の生みの親、アキレス株式会社シューズ事業部事業企画本部の津端裕副本部長だ。
「運動会は2000年ごろから撮り続けています。うちの靴を履いている子供たちを見ると、ついうれしくて撮りたくなっちゃう。運動会はみんなカメラをぶら下げているから、私も子供たちの足元を撮るわけです」
そう言って笑う津端氏だが、もちろん趣味で撮影しているわけではない。運動会は子供靴開発のヒントがたくさん眠っている特別の場であり、「瞬足」も運動会から生まれたのだ。
話は1980年代にさかのぼる。当時よく売れたのは、リフレクター(反射体)やプラズマ(発光体)付きの仕掛け要素のきいた靴。しかし90年代に海外ブランドのシューズが流行、子供靴にもデザイン重視の波がやってきた。仕掛け重視の靴は不振に陥り、新商品の開発を迫られた。
「会議では、野球やサッカーをテーマにした企画も出ました。しかし1つに絞ると、せいぜい100人中25人くらいにしか履いてもらえません。そこで浮かんできたのが運動会。スポーツが得意な子も苦手な子も、運動会なら誰もが経験しますからね」
ヒントを求めにさっそく運動会を見に行ったところ、何人かの子供たちが同じ行動をしていることに気がついた。コーナーを回るとき、片腕をブンブンと振り回すのだ。
「コーナーでは遠心力で体が外に振られ、その力に負けないように子供たちは自然に手を回していたようです。それを見て、靴の片側だけ摩擦係数を高くしてグリップ力をつけたら走りやすいと考えたのです」
そうして生まれたのが、左右非対称ソールの「瞬足」だ。キャッチコピーは、「コーナーで差をつけろ」。このコピーが少しでも速く走れるようになりたい小学生のハートをわしづかみにして、子供靴としては異例の大ヒットにつながった。