「野生のバッタを知らずに何ができるというのだ」

殺虫剤を浴びたバッタが大地を覆う。(撮影=前野ウルド浩太郎)

「コータロー。毎月大量のバッタの論文が発表されるが、この人たちの研究成果が一体防除の何の役に立つというのか。オレは見る気もしないのだよ。誰も防除のことなんか考えていない。彼らはサバクトビバッタが生息していない国の、しかも屋内で観察していて、野生のバッタを知らずに何ができるというのだ。誰も、誰も本気でバッタの問題を解決しようとしていないのだよ」

所長は寂しげに答えてくれた。世界中でバッタ研究が活発に行われていることを現地の人たちは喜んでいるものとばかり思っていたので、驚いた。世界の学術研究と飛蝗害に苦しめられるアフリカの現場との間にはギャップがあったのだ。

私は屋内で実験をした経験もある。モーリタニアで新たに屋外での調査も経験し、そして所長の本音を聞けたことで今までのバッタ研究に欠けていたものが見えてきた。これまでにも外国のバッタ研究者がアフリカを訪れて研究した例は多くある。だが、そのほとんどは短期間で、自分たちが机の上で考えた仮説を検証するためにやってきており、長期に渡って現地で問題を汲み取ろうとした者がいなかったのではないか。これこそが、今までバッタ問題が解決されていない理由なのでは。そして、このギャップを埋め、お互いの良いところを分かち合うことができるのが、ウルドを名乗る私なのだ。しかも私はそれを大喜びでやれるのだ。

ある日、いつものように所長室に行くと深刻そうなババ所長。

所長「今度、中国で開催する国際バッタ学会なんだけど、ちょっと行けなくなったわ」

それは私も同行する学会のことだった。

前野「えー、マジすか? 予定してた2つの発表どうするんスか?」
所長「1つめはシンポジウムの企画者に代打をお願いしたんだけど、2つめをどうするか悩んでるんだよ」

お世話になっている所長が困っている。ここはオレがやるしかないでしょう。たとえ、すでに自分の発表が2つあるとしてもやるしかないでしょう!! 国際学会なので発表は英語というハードルがあり、自分自身のことで手一杯だったが、覚悟を決めた。決めた上で、もういちどだけ訊いてみた。

前野「所長が参加できないとみんな寂しがると思います。もう一度考え直してくれませんか?」
所長「今回は本当に無理なんだよ」

「南無三」と心に掛け声をかけて、私は言った。

前野「自分、英語ショボイんですけど、もし可能だったら、喜んで代打します」
所長「本当か! 良かった! これで悩みは解決だ! 任せたコータロー・ウルド!」

私の英語力は話す前からすでに「手負い」。私は3つの発表を無事にこなせるだろうか。

●次回予告
かくして国際学会に臨んだバッタ博士。場所は中国雲南省昆明市。お忍び帰国した博士へのコンタクトに成功した編集部は、学会発表の成果を訊く。そこで博士はプレゼンテーションの極意を語った。編集部は驚愕し、確信した。世界が博士を「砂漠のジョブズ」と呼ぶ日は近い、と。次回第9回、仕事に役立ってしまう「ひと工夫」がてんこ盛り、《砂漠のプレゼン特訓》の巻(8月31日更新予定)、乞うご期待。

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