伊勢神宮の真ん前という“最高の立地”にありながら、閑古鳥が鳴いていた老舗食堂「ゑびや」。そこへ現れたのが、ソフトバンク出身の社長だった。2012年に入社後、12年で売上12倍、利益80倍を達成。食品ロス7割減、従業員の給与1.6倍になった。なぜそれが可能だったのか。ビジネスライター・伊藤伸幸氏が取材した――。
「世界一IT化された食堂」と呼ばれる飲食店
伊勢神宮・内宮の鳥居前町として人気のおはらい町。約800m続く石畳の通りには、数多くの土産物店・飲食店などが建ち並び、多くの参拝客でにぎわっている。その中でも、内宮に近い最もにぎやかな場所にゑびや大食堂はある。
この食堂は創業100年以上の老舗食堂だが、現在では「世界一IT化された食堂」として様々なメディアで取り上げられている。
厨房の壁に取り付けられた大型モニターには、当日の時間帯別の客数予測のデータが表示されている。データに基づいた最適な店舗オペレーションにより、仕入れや仕込み、人員配置の最適化を実現。AIを活用した来客予測システムによる店舗ビジネスの売上増に加え、ECやシステム開発などの多角化により売上を急拡大させた。12年間でグループとしての売上を12倍にまで伸ばしたのだ。
しかし現代表の小田島春樹氏が入社した13年前のゑびやは、ITとは程遠い、昭和の時代のままの食堂だった。
ソフトバンクからやってきた新社長
2008年、小田島氏は大学を卒業後、孫正義に憧れてソフトバンクに入社した。その後大学時代に知り合った現在の妻と結婚し、東京で暮らしていた。結婚する以前に、妻からは実家が伊勢で食堂をやってるという話を聞いていた。
結婚するタイミングで妻の実家に挨拶に行った際に、先代である義父からそれとなく食堂を継いでほしいというようなことを言われたという。しかし当時は全く興味が無かったので、やんわりと断った。




