ただし、子供にとって悩ましいのは、呼び寄せたり、施設への入居を勧めるときのタイミングや切り出し方です。「人生の最後をどこで送るか」というのはその人の人生の集大成みたいなもの。日本人の場合、家を持つことが人生の目標であり、65歳以上の方の8割以上が持ち家です。人生を捧げた家に対する思い入れは強い。

それでも1人では不安で暮らせないとか、庭の手入れができないとか、雨漏りがして台風が怖いとか、いろいろなことがあります。

「戸建てで1人暮らしは難しい」と思っているかもしれない。そういう気持ちに寄り添ってあげることが大事だと思います。

だからまずは話を聞いてあげること。1人暮らしや老夫婦だったりすると、1日1言もしゃべらないで、「電話がかかってきたときに声が出ない」なんて話をよく聞きます。不安を抱えながら一生懸命暮らしている。そんなときに電話で息子から「どうすんだよ。施設でも入ったほうがいいんじゃないか?」なんて言われるとすごいショックで、つい「いいよ、私はここにいる」と強がってしまう。

とにかく聴いてあげる。聞くのではなく、耳を傾ける。すると弱気や不安、いろいろ出てきます。もう1つ大事なのは親子の情を絡めて話すこと。心配する気持ちをきちんと伝えると、「ああ、真剣に考えてくれているんだな」と思うわけです。あとはタイミング。震災で不安を感じたり、転倒骨折して入院したり。頑張ってきた心のつっかえ棒が折れかけているときが必ずある。そういうときに優しくひと声かけてあげると、親も納得しやすいと思います。

医療福祉ジャーナリスト おちとよこ
高齢者介護、医療、福祉などに関するテーマを中心に活躍。『現役世代のための介護手帖』など著書多数。
(構成=小川 剛)
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