試合が終わったときに、勝っていればいい
ライバルたちも吉田を研究し、猛烈に追いかけた。11年の世界選手権ではカナダのトーニャ・バービックに1ピリオド奪われ、同年末の全日本選手権では高校生の村田夏南子に追い詰められた。そして、ロンドン五輪目前の5月、ワールドカップではロシアのワレリア・ジョロボワに敗れ、再び連勝記録が止まった。
なぜ、またしても負けてしまったのか。吉田が1番の理由として挙げたのが、「慣れ」である。
「あの試合を振り返って1番思うのは、慣れの怖さですね。なぁなぁの気持ちで、なんとなくマットに上がってしまいました。試合が始まっても、ガムシャラに攻めず、相手の出方を見たり、時計をチラ見したり。世界選手権で1ピリオド取られたシーンが頭をよぎったりしました。タックルに入ろうとしても、躊躇する自分がいたんです」
負けなければ、わからないことがある。吉田は敗戦を、冷静に自己分析した。
吉田の最大の武器は、レスリングの正攻法であるタックルだ。父・栄勝さんは、「返しの吉田」と呼ばれ、鉄壁のディフェンスと冷静なカウンター攻撃で全日本選手権を制した選手だった。ところが、チビッ子レスリングの指導者となると一転。子どもたちにはタックルの重要性を教え、基本を反復させた。娘・沙保里が3歳になってレスリングを始めたときも、最初に教えたのはタックルだった。「タックルを制する者が、レスリングを制する」。それが今も変わらない父の口癖だ。
北京五輪前、吉田は正面からのスカッドミサイル・タックルに加え、片足タックルをものにした。連勝を止められた原因はタックル返しにあり、それを受けないようにするためだ。ロンドン五輪前、吉田は自分が豪快にタックルに飛び込んでいける離れた間合いだけでなく、接近戦を中心とする新スタイルも取り入れた。