「丸山ワクチン」とは一体どういうものか
『アンパンマン』の作者・やなせたかしさん、その妻・暢さん夫妻をモデルにしたNHKの連続テレビ小説「あんぱん」が最終話を迎えました。
最終話近くでは、日本テレビのアニメ『それいけ!アンパンマン』が始まり、北村匠海さんが演じるやなせさん、今田美桜さんが演じる暢さんが喜び合う姿は幸福感に溢れていましたが、暢さんは乳がんであることがわかり、手術を受けることに。退院後「今年の桜は見られないかもしれない」とつぶやく暢さん、そんな暢さんを励ますやなせさん。実際には、暢さんはその後も5年間は元気に過ごされたそうですが、その理由が「丸山ワクチン」を使用したからだという説を見て驚きました。
丸山ワクチンとは、日本医科大学の丸山千里博士が開発した結核菌由来の抽出物です。もともとは皮膚結核の治療を目的に研究されましたが、肺結核患者に肺がんが少ないという観察に基づき、がん治療への応用が試みられました。1970年代には抗悪性腫瘍剤として承認申請されたものの、有効性が確認できず未承認のままです。
ただし、研究継続は認められ、その後も例外的に「有償治験薬」として、患者が実費を負担するかたちで使用が可能となっています。
暢さんの病気の詳細は正確にはよくわからない
さて、まさに先日、医療ジャーナリストの木原洋美氏による「『あんぱん』では描けない、やなせたかしが晩年に明かした後悔…“余命3カ月”の妻・暢と過ごした“最期の5年”」という記事がプレジデントオンラインに掲載され、丸山ワクチンについていろいろと記されています。
この記事によると、暢さんの乳がんについて「緊急入院し、即日手術を受けた後、担当医から別室に呼ばれたやなせさんは、『奥様の生命は長く保ってあと3カ月です』と告げられる」とあります。しかし、まず余命が3カ月であれば普通は手術を行いません。当時であっても、転移性乳がんの予後は1〜2年間でしょう。
また、「病気のことは誰にも明かさないまま仕事を続けていたが、異変に気が付いたのは漫画家の里中満智子さんだった。事情を聞かれ、生命があと3カ月と宣告されたことを打ち明けた。すると思いがけない提案をされる。『私も癌だったの。私は手術がいやで、丸山ワクチンを打ち続けて7年目に完治したの。試してみませんか』」と書かれています。しかし、里中満智子さんのインタビュー記事を見ると、初期の子宮頸がんに対して円すい切除手術を受けているのです。「7年目に完治」の意味はよくわかりませんが、丸山ワクチンなしでも普通に起こり得る経過です。
やなせさんは医学の専門家ではありませんし、記憶違いもあるでしょう。そのため、このような「体験談」から病気の実際の経過を正確に知ることは困難です。

