子どもの言語発達に関して悩む親は少なくない。健診で「様子を見ましょう」と言われたら、本当に様子見でいいのか。言語障害学博士の田中裕美子氏は「ことばの遅れが見られる『レイトトーカー』なのか、今後言語発達障害になるリスクが大きいのか、評価してもらったほうがよい」という——。

※本稿は、田中裕美子(編著)、遠藤俊介・金屋麻衣(著)『ことばの遅れがある子ども レイトトーカー(LT)の理解と支援』(学苑社)の一部を再編集したものです。

子を抱きしめる母親
写真=iStock.com/Hakase_
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レイトトーカーをみるポイント

「LT(レイトトーカー)」は、全般的な運動や認知の発達が良好であり、自閉スペクトラム症(ASD)に特徴的な社会性発達の問題がないことが前提となります。そのため、言語表出や言語理解の問題を評価することはもちろんですが、運動・認知発達や社会性発達もしっかり捉えることが重要です。

ここでは、2人の2歳児でLTと評価された例を紹介しましょう。

【図表1】定型発達の子どものレーダーチャート
出典=田中裕美子(編著)他『レイトトーカーの理解と支援』(学苑社)

例1:単語がなかなか増えないFちゃん

Fちゃんは2歳1カ月の女の子です。2歳を過ぎたのに、単語がなかなか増えないことを保護者が心配して病院を受診し、ST(言語聴覚士。「話す、聞く、食べる」に関する専門職)の相談につながりました。

Fちゃんは日常の簡単なことばは理解できているようですが、言える単語は「まま」「わんわん」など数語だけです。欲しいものは指さしと「ん」という発声で要求できるので生活に困らないそうですが、保護者は何か発達に問題があるのではないかと、とても心配していました。

初回来室時、Fちゃんが慣れてきたところで、STが動物や食べ物の絵を見せながら「これはなに?」と聞いても、母親の顔を見るだけでことばは全く発しませんでした。一方で、絵が複数並んだシートを見せて、「車はどれ」「ぞうさんはどれ」と聞くと、上手に指さしで答えることができました。

母親との遊び場面を観察すると、ごっこ遊びで母親にお料理をつくったり、人形にご飯を食べさせてあげたりと、上手にやりとり遊びをしています。母親を呼ぶ際には「まま」と呼びますが、それ以外に意味のあることばは全く発しませんでした。その代わり、指さしで欲しいものを要求したり、簡単な身ぶりで母親とやりとりする姿が見られました。

STは、より詳しい評価と母親からの経過確認を実施することにしました。

単語を38個しか話せていなかった

STが「乳幼児発達スケール(KIDS、乳幼児の自然な行動全般から発達を捉える評価方法のひとつ)」で検査したところ、全体的な発達指数は96でした。しかし他の領域に比べて、表出言語が落ち込んでいることがわかりました。母親に「日本語マッカーサー乳幼児言語発達質問紙(MCDI、保護者の記入に基づいて乳幼児の言語発達を評価する方法のひとつ)」をつけてもらうと、表出語彙は38語で、非常に少ないことがわかりました。